生成AIはアートの「テーマ」か「パートナー」か──「AS ___ AS POSSIBLE」【EDITOR’S NOTES】
AI企業Anthropicが制作を支援し、韓国の作家5組が新作を発表した展覧会「AS ___ AS POSSIBLE」が、ソウルのポンピドゥ・センター・ハンファで開かれている。AIの「解釈可能性」と「アラインメント」を主題に掲げた本展から、AI企業とアートの関係の変化を読む。

米Anthropicによるコミッション展
ソウル・汝矣島の63ビル別館に今年開館したポンピドゥー・センター・ハンファで、10月23日から11月13日まで「AS ___ AS POSSIBLE」展が開かれている。本展はハンファ文化財団が米国のAI企業Anthropicと組んだアート・コミッションで、Anthropicは新作の制作費を支援するとともに、アーティストたちが制作の過程で同社のAIモデル「Claude」を使えるようにしている。Anthropicが韓国の文化芸術財団とコラボレーションするのは、今回が初となる。
本展が掲げるのは、AI研究においても注目される2つのテーマだ。AIシステムの内部で何が起きているのかを理解しようとする「解釈可能性(interpretability)」と、AIが人間の意図や価値観に沿って振る舞うようにする「アラインメント(alignment)」。私たちは技術に対して、できる限り速く/正確に/安全にと絶えず目標を与えているが、技術が複雑になるほど、アウトプットがどう生み出されたのか理解することは理解しづらくもなりうる。
タイトルの「AS ___ AS POSSIBLE」は「できる限り〜に」を意味し、私たちが技術に対してさまざまな要求を突きつけていることを示唆する。本展をそんな状況を空欄のまま提示することで、AIが与えられた要求をどう受け取りどう実行しているのか、人間とAIの「あいだ」で起きていることを問うものだったと言える。

AIへの指示と実行の間を描く
ポンピドゥー・センター・ハンファのメイン展示室ではなくロビーとカフェフロアに置かれた5組の作品は、いずれもこの「あいだ」を異なる角度から扱っている。チョン・ガヒの《103 Early Hints》は、103台の超小型モニターを吊り下げたインスタレーションだ。作品タイトルは、サーバーが最終的な応答に先立って送るHTTPのステータスコードに由来している。小さな画面には同アーティストの過去作に登場した人物やモノが監視映像のように映され、そこにはコードも添えられているが詳しい状況はわからず、鑑賞者はヒントのように散りばめられた映像の間を歩いていくことになる。
MinOhricharの《Rocket Sequence #11 Orbit》は、1時間1分の映像と音の振動を伝える鉄製のステージから構成された作品だ。画面に表示されたモノポリーを通して、人間がルールやゲームを規定するだけでなく、むしろゲームが人間を規定しつつある状況を示す。ヨム・インファの《Chandra Chronicles: In Neuroverse》は、ARと組み合わせた歩行補助器とAIの案内を通じて「正常」や最適な性能という基準を問いなおす。Ubac Studioの《Body, Still, Moving》は、デジタルマップのストリート写真に偶然写り込んだ身体が、回転するスクリーンの奥で宙吊りにされている。
なかでもClaudeの関与が最も明確に示されているのが、チュ・ミリムの《Searching for a New Path》だろう。アニメーションソフトのシェイプトゥイーン機能は、始まりと終わりの形を指定するとその間の形を自動で生成するが、ソフトが最も効率的な経路として計算した中間の形は、ときに線が絡まり、誰も意図しなかった姿で現れる。本作はClaudeとともにこの計算過程を読み解き、線をつなぐ順序や時間差、軸といった条件を変えることで、ソフトが示した最適な経路から外れる新たな経路をつくりだしている。あるシステムの内部を別のシステムを通して理解しようとする手つきは、AIを使ってAIの内部を読み解こうとする解釈可能性研究の構図とも重なって見える。

テーマを提供し制作のパートナーになる
本展は、AI企業とアートの関係が変わりつつあることを示しているようにも思われる。
たとえば現在につながるAIブームが盛り上がりを見せ始めた数年前、OpenAIは作品をつくる「ツール」としてAIモデルを提示していた。OpenAIは2022年、画像生成AI「DALL·E」をフロリダのダリ美術館の展覧会に提供し、来館者が夢を言葉にして画像を生成する体験をつくった。2025年には動画生成AI「Sora」で制作された短編映像を集める「Sora Selects」を立ち上げ、ニューヨークや東京で上映会を開いている
他方のAnthropicは、まず美術館の展覧会を支える協賛者として現れた。テート・モダンの「Electric Dreams: Art and Technology Before the Internet」(2024〜25年)や森美術館の「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」(2025年)を協賛するなど、テクノロジーやAIをトピックのひとつとして扱うような展覧会をサポートしてきた実績をもつ。

こうした流れを踏まえてみると、本展は漠然とAIを扱うというよりは、実際にAI研究の世界やAI企業にとって重要なテーマをアートによって可視化したり読み解いたりするようなものだと言える。サイバー犯罪が急増しAIに対する社会の警戒感も強まるなかで、AnthropicやOpenAIといった巨大AI企業のアートへのアプローチも変わっていくのかもしれない。
そして本展を考えるうえで興味深いのは、ほぼ同時期に日本ではAnthropicが主催する展覧会が東京・西麻布のKARIMOKU RESEARCH CENTERで行われていたことだろう。「Machines of Loving Grace」と題されたこの展示は同社CEOのダリオ・アモデイが2024年に発表したエッセイからタイトルがつけられており、カリモク家具の協力のもと、真鍋大度と神山友輔の2人が新作を発表した。
真鍋の《Timber / Timbre》は、カリモク家具とKARIMOKU RESEARCHが共同開発した木製の筐体にモジュラー・シンセサイザーを組み込み、植物の生体電位や会場の環境の変化を音の揺らぎとして取り込む作品であり、筐体やパーツはClaudeとの対話を重ねながらつくられていったという。神山の《Dance as Waves》は、光を灯したアームが大きな弧を描く3体のキネティック・インスタレーションで、その動きのシミュレーションにClaudeが使われている。
プレスリリースにおいて「テクノロジーを効率化の道具ではなく、想いを巡らせ試行錯誤を共にするパートナーとして捉え」ると書かれているように、こちらの展示はポンピドゥー・センター・ハンファのようにAIそのものをテーマとするというよりも、制作の「パートナー」としてAIが位置づけられていたことが印象的だった。
もっとも、両者は同じ動きの裏表を示しているだけなのかもしれない。もはやクリエイティブ領域においてもAIは一般的なツールのひとつとなっており、AIを使うこと自体は特別な意味をもたなくなっている。そこで問われるのは、作品のテーマとAIの結びつきであり、制作におけるAIとの関係性でもあるのだろう。
「AS ___ AS POSSIBLE」
会期:2026年10月23日(金)〜2026年11月13日(金)
場所:FUTURA SEOUL(61, Bukchon-ro, Jongno-gu, Seoul)
時間:10:00〜18:00(火〜金、日)、10:00〜19:00(土)
休館日:月曜