「国益に反する」と主張、アメリカがユネスコから再脱退へ。文化外交の後退に懸念も

ドナルド・トランプ米大統領は、国連の文化機関ユネスコから2026年末をもって再び脱退すると発表した。世界遺産の保護や文化財の再建を担う国際組織との関係を断つこの決定は、アメリカの文化外交における孤立をさらに深めるものとして、国内外で波紋を広げている。

ユネスコ本部
フランス・パリにあるユネスコ本部。Photo: Chesnot/ Getty Images

ドナルド・トランプ大統領は、世界遺産の保護と擁護を担う国連の文化機関、ユネスコ(UNESCO)からアメリカを脱退させる方針を明らかにした。人権を推進する国際機関との関係がますます希薄になる中での決定で、国務省はこの措置が2026年末に発効する予定だと発表している。

国務省の報道官、タミー・ブルースは声明で、「ユネスコに関与し続けることは、アメリカ合衆国の国益にかなわない」と述べ、こう続けた。

「ユネスコは社会的・文化的に分断を招く主張にプラットフォームを提供しており、国連の持続可能な開発目標(SDGs)というグローバリスト的かつイデオロギー的な国際開発アジェンダを推進している。それは我々のアメリカ・ファーストの外交方針と矛盾する」

トランプ大統領は、気候変動や感染症、文化遺産の保全など、地球規模の課題に対して多国間の協調を重視する国際組織に対して否定的な立場をとってきた。特に国連と連携する組織への不信感は顕著で、2018年には国連人権理事会(UNHRC)からの脱退を決定。2期目の初日には、世界保健機関(WHO)からもアメリカを離脱させている。

今回のユネスコ離脱は、アメリカと同機関との長年の緊張関係の延長線上にある。オバマ政権下の2011年、ユネスコがパレスチナに正式加盟資格を付与した際にアメリカはこれに反発して拠出金を停止。2017年には、トランプ政権が正式に脱退を表明した。その後、バイデン政権は、アメリカの不在によって中国などの地政学的ライバルが影響力を拡大することへの懸念を強調し、2023年に再加盟を果たした。

ユネスコは現在、世界各地に存在する1200件以上の世界遺産の保護・監視を行っており、とりわけ紛争下で損壊や破壊の危機にある文化遺産への対応を重視している。また、新たな保護対象となる文化財の指定も行っており、アメリカ国内には、ユネスコにより26件の世界遺産が登録されている。

保存が困難なケースでは、再建支援もユネスコの重要な任務だ。2024年6月の時点で、ユネスコは2022年2月以降、ロシアによって被害を受けたウクライナ国内の文化施設が501件に上ると報告。そのうち151件が宗教施設、34件が美術館だった。またユネスコは、軍事目的での使用や攻撃からの最高レベルの保護を保証するため、戦争下にある文化遺産に対して「強化された暫定的保護(provisional enhanced protection)」の措置をとる権限を持つ。

ユネスコは、「この保護措置に違反する行為は、1999年のハーグ条約第二議定書に対する重大な違反と見なされ、法的措置が取られる可能性がある」と説明している。同機関は、加盟国の拠出金の一部を財源として、文化遺産の再建プロジェクトも主導しており、イラクのモスルやウクライナ各地の遺跡がその恩恵を受けてきた。

また、ユネスコは、イスラエルによるガザ攻撃でパレスチナの文化遺産が損壊していることや、占領下のヨルダン川西岸で進む違法入植が考古遺産に及ぼす脅威にも懸念を示している。2024年7月には、ガザにある5世紀の聖ヒラリオン修道院(テル・ウム・アマー)を危機遺産リストに追加したことが、イスラエルおよびその同盟国との間で物議を醸した。

アメリカの脱退理由として、ブルース報道官は「ユネスコ内での反イスラエル的な言説の蔓延」も挙げている。

これに対して、ユネスコのオードレ・アズレ事務局長は、「今回の発表は残念だが、想定内のものであり、ユネスコはすでに準備を整えている」と声明を発表。アメリカの脱退による財政的影響は限定的であるとし、同機関が近年、加盟国および民間ドナーからの任意拠出にシフトしてきたことを理由に挙げた。現在、アメリカの拠出金はユネスコの予算全体の8%にとどまり、2011年当時の約20%から大きく減少している。

アズレ事務局長はさらに、「アメリカが脱退の理由として挙げた論点は7年前と同じだが、状況は大きく変化している。政治的緊張は緩和し、今日のユネスコは、具体的かつ行動重視の多国間主義において、貴重な合意形成の場となっている」と強調した。

from ARTnews

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