今週末に見たいアートイベントTOP5:草間彌生らの180点で日本の現代美術史を振り返る、台湾現代作家が問う「戦争」と「いま」
関東地方の美術館・ギャラリーを中心に、現在開催されている展覧会の中でも特におすすめの展示をピックアップ! アートな週末を楽しもう!

1. ソー・ユー・ノウェ + 樫木知子(オオタファインアーツ)
異なるルーツを持つ2人が表現する「身体」と「精神」
ミャンマー出身の彫刻家ソー・ユー・ノウェと樫木知子の二人展。ノウェは1989年生まれ。故郷の民間伝承、仏教やアミニズム的な実践からインスピレーションを得て作品を制作。自身が中国系のルーツも持つのと同様に、異なるものを組み合わせることで、アイデンティティの多層性や流動性を表現している。1982年生まれの樫木知子は、日本画を想起させる流麗な描線と透明感あふれる色彩による絵画表現を用いて、身体を描き続けている。
本展は、異なる文化的背景を持つ2人が「身体」と「精神」をテーマに制作した作品を発表する。ノウェは観音像が通常ミャンマーでは美しい女性として表象される一方で、日本の三十三間堂では男性として表現されることに触発され、神話的存在を通じたジェンダー・アイデンティティへの問いを新たなシリーズへと発展させた作品を展示する。樫木は、人間が水面に吸い込まれて行くようにも見え、水面下の世界と引っ張りあってもいるように見える新作《私を探す》を発表。互いの作品が展示空間で静かに共鳴する。
ソー・ユー・ノウェ + 樫木知子
会期:7月5日(土)〜8月16日(土)
場所:オオタファインアーツ(東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル3F)
時間:11:00 ~19:00
休館日:日月祝
2. scopic measure #17:マヤ・エリン・マスダ「Ecologies of Closeness 痛みが他者でなくなるとき」(山口情報芸術センター[YCAM])
気鋭作家が人間と環境の関係性に切り込む
新進気鋭のアーティストを紹介する展示シリーズ「scopic measure」の第17弾として、ベルリン・東京・ロンドンを拠点に活動するアーティストのマヤ・エリン・マスダの個展を開催する。マスダは、映像や液体を用いた作品を通じて、人間中心の社会が自然や動植物に与えてきた影響を問い直し、「クィア・エコロジー」という視点から、国家が生命や出生を管理する「生政治」とテクノロジーの関係を探求している。
本展では、放射線による皮膚の変容や、汚染に晒された動物や土地に起こる変化に対するリサーチをもとに制作した新作を中心に、過去作《Pour Your Body Out》(2023-2025)などを展示する。作品を通して、目に見えにくい「毒性」と共に生きざるを得ない現実を浮かび上がらせ、そのような環境を生み出した人間と、その影響を受けるさまざまな存在との間に生じる関係性を提示する。
scopic measure #17:マヤ・エリン・マスダ「Ecologies of Closeness 痛みが他者でなくなるとき」
会期:7月5日(土)~11月2日(日)
場所:山口情報芸術センター[YCAM]スタジオB(山口県山口市中園町7-7)
時間:10:00~19:00
休館日:火曜(祝日の場合は翌日)
3. ハッチポッチ 藤枝リュウジの世界(広島県立美術館)
「ハッチポッチステーション」生みの親の創作を網羅
1996年から2022年までNHK教育テレビ(現・Eテレ)で放送されたパペット番組「ハッチポッチステーション」のアートディレクションを手掛けたことで知られる、藤枝リュウジの大規模展覧会。藤枝はイラストレーター&アートディレクターとして、半世紀以上のキャリアを持つ。
本展では、藤枝が手掛けた絵本やアートディレクション、 広告、 装幀、 CMのほか、『ハッチポッチステーション』に登場したパペット18体やアイデアスケッチ、本展のために描き下ろしたイラストなど500 点以上を紹介する。
ハッチポッチ 藤枝リュウジの世界
会期:7月18日(金)〜9月7日(日)
場所:広島県立美術館(広島県広島市中区上幟町2-22)
時間:9:00〜17:00(金曜は20:00まで、入場は30分前まで)
休館日:なし
4. チェン・チンヤオ展「戦場の女」(eitoeiko)
台湾の現代作家が重ねる「戦時中」と「現代」
1976年台湾生まれのチェン・チンヤオ(陳擎耀)の個展。チェンは時代と流行、社会制度に言及する作品を笑いやユーモアを交えながら制作している。
本展では日本統治時代の台湾に生まれた女性画家チェン・ジン(陳進 1907-1998)の作品を引用し、日本・中国・台湾という国の現在地を示す。例えばチェン・ジンが終戦の年の1945年に描いた、地下防空壕の出入口から上空を見上げる女性の姿が描かれている《眺望》に、チェン・チンヤオは現在の社会状況を映し出した。そのほかチェン・ジンの作品を引用した3点の映像作品もあり、これらはそう遠くない過去の美術史を掘り起こし、現在の安全な日常生活は政治や外交といったものと切り離すことができないことを改めて思い起こさせる。
チェン・チンヤオ展「戦場の女」
会期:7月19日(土)〜8月23日(土)
場所:eitoeiko(東京都新宿区矢来町32-2)
時間:12:00~19:00
休館日:日月、8月12日~15日
5. 開館30周年記念 未来/追想 千葉市美術館と現代美術(千葉市美術館)
草間彌生らによる180点で日本の現代美術史を辿る
1995年に開館した千葉市美術館の30周年を記念した展覧会。同館の建築が着工した1991年より継続して収集されてきた現代美術のコレクションから約180点を精選し、戦後の日本美術史を辿るとともに、近年収蔵した若手作家の作品も展示することで、過去から未来へと繋がる美術館の活動を紹介する。
展示作家は草間彌生、河原温、田中敦子、高松次郎、赤瀬川原平、中西夏之、河口龍夫、杉本博司、辰野登恵子、吉澤美香、マルセル・デュシャン、瀧口修造、Nerhol、目[mé]ほか。中でも草間彌生コレクションは必見。本展では、代表作である「無限の網(Infinity Nets)」シリーズの大型作品《No.B White》のほか、寄託作品を含む全19点を公開する。
開館30周年記念 未来/追想 千葉市美術館と現代美術
会期:8月2日(土)〜10月19日(日)
場所:千葉市美術館(千葉県千葉市中央区中央3-10-8)
時間:10:00〜18:00(金土は20:00まで、入場は30分前まで)
休館日:月曜(祝日の場合は翌日)