スキャパレリ、日本初ブティックを大阪にオープン──ダリらと育んだメゾンの芸術的遺産を継承

シュルレアリスムの芸術家たちとの協働で知られるファッションメゾン、スキャパレリが、大阪・阪急うめだ本店に日本初のブティックをオープンした。幻想的な空間には、創設者エルザ・スキャパレリが築いた美術との深い関係を受け継いだメゾン独自の美学が反映されている。

スキャパレリ 阪急うめだ本店

フランスのファッションメゾン、スキャパレリ(Schiaparelli)が、2026年10月17日、日本初となるブティックを大阪の阪急うめだ本店6階にオープンした。クリエイティブ・ディレクターのダニエル・ローズベリーとスウェーデンの建築事務所ハレロード(Halleroed)が協働してデザインした店内は、パリのヴァンドーム広場21番地にある本店の精神を継承。シュルレアリスム的な幻想とクラフツマンシップが融合する空間となっている。

スキャパレリ 阪急うめだ本店
スキャパレリ 阪急うめだ本店
スキャパレリ 阪急うめだ本店
スキャパレリ 阪急うめだ本店
スキャパレリ 阪急うめだ本店
スキャパレリ 阪急うめだ本店

スキャパレリを創設したイタリア出身のエルザ・スキャパレリ(1890〜1973)は、ファッションと美術の境界を横断した先駆的なデザイナーとして知られる。その革新的な表現を象徴する初期の作品が、1927年に発表したトロンプルイユ(だまし絵)のセーターだ。黒地のニットに白いリボンが結ばれているかのような模様を編み込んだこの作品は、平面的な装飾を立体的に見せる錯視によって、衣服の既成概念を覆した。エルザは、シュルレアリスムの芸術家たちと本格的に協働する以前から、視覚的な錯覚やユーモアをファッションに取り入れていたのだ。

とりわけ1930年代には、当時パリで隆盛を極めていたシュルレアリスムの芸術家たちと積極的に交流。サルバドール・ダリ、ジャン・コクトー、マン・レイ、レオノール・フィニらとの協働を通じて、衣服を単なる装飾や実用品ではなく、常識や美の概念を揺さぶる表現媒体へと変貌させた。

なかでも有名なのが、ダリと共同制作した1937年の《ロブスター・ドレス》だ。白いオーガンジーのドレスに巨大なロブスターを配したこの作品は、優雅なイブニングドレスと場違いな甲殻類という意外な組み合わせによって、見る者に驚きと違和感を与えた。同年には、靴を帽子へと転用した《シュー・ハット》も制作。翌1938年には、骨格を立体的に浮かび上がらせた《スケルトン・ドレス》や、布地が引き裂かれたように見える《ティアーズ・ドレス》を発表した。日常的な物体を本来の文脈から切り離し、身体の内部と外部、現実と幻想を反転させるこれらのデザインは、シュルレアリスムの思想をファッションに持ち込んだ象徴的な作品となった。

《ロブスター・ドレス》(1937)Photo: Thierry Chesnot/Getty Images
《スケルトン・ドレス》(1938)Photo : V&A © 2025 Salvador Dalí, Fundació Gala-Salvador Dalí, DACS. Photograph © Emil Larsson
《シュー・ハット》(1937)Photo: Charles Eshelman/FilmMagic
《Shocking》(1937)Photo: Apic/Bridgeman via Getty Images

スキャパレリと芸術家たちの交流は、衣服のデザインにとどまらなかった。コクトーのドローイングをもとにした刺繍、マン・レイによる写真表現に加え、レオノール・フィニは1937年に発表された香水「Shocking」のボトルデザインにも関与。女性の胴体をかたどった香水瓶は、身体そのものを造形の対象とするメゾンの美学を象徴している。また、1935年に移転したヴァンドーム広場21番地のサロンでは、ジャン=ミシェル・フランクが内装を手がけ、アルベルト・ジャコメッティも照明の制作に携わった。美術、デザイン、ファッションが一体となったその空間は、メゾンの芸術的なアイデンティティを体現していた。

さらに、エルザ自身も前衛美術の発展に積極的に関わっていた。1920年代には、マルセル・デュシャンやキャサリン・ドライアーらが設立したニューヨークの美術振興団体「ソシエテ・アノニム」の初期運営を手伝い、1942年にはニューヨークで開催されたシュルレアリスム展「First Papers of Surrealism」の実現を支援した。同展ではアンドレ・ブルトンが企画を主導し、デュシャンが会場構成を手がけた。また、エルザはダリやレオノール・フィニ、マン・レイらの作品を収集するコレクターでもあった。彼女にとって美術は、服づくりのための着想源にとどまらず、自らが深く関与する創造的な活動領域だったのだ。

今回、大阪に誕生したブティックにも、こうした歴史が反映されている。親密なアパルトマンをイメージした店内には、サテン仕上げのステンレススチールや鏡面、ラッカー仕上げの木材、彫刻的な家具を配置。レディトゥウエア、レザーグッズ、ジュエリーのための空間が連なり、メゾン独自の世界観を演出している。

なかでも特徴的なのが、ブティックの中心に設けられた全面鏡張りのジュエリールームだ。無限に繰り返される反射によって空間の奥行きや視点が変化し、まるでジュエルボックスの内部に入り込んだかのような感覚を生み出す。現実の空間を視覚的に変容させるその演出には、シュルレアリスムが追求した錯視や幻想の美学が重なる。

店内では2026年秋冬コレクションをはじめ、「シークレット」「スフレ」「フェイス」といったアイコニックなバッグ、身体のパーツをモチーフにしたアナトミカル・ジュエリー、彫刻的なテーラリングを特徴とするレディトゥウエアなどを展開する。

2019年にクリエイティブ・ディレクターに就任したローズベリーは、エルザが築いたシュルレアリスムの遺産を現代的に再解釈してきた。エルザが錯視や意外なモチーフの組み合わせによって衣服の常識を覆したのに対し、ローズベリーは人体のパーツを拡大した金属製の装飾や、彫刻を思わせる大胆なシルエットによって、身体そのものを造形の対象としている。約1世紀を経てもなお、ファッションと美術の境界を揺さぶる実験精神は、メゾンの創造性の核であり続けている。

スキャパレリ 阪急うめだ本店
所在地:大阪府大阪市北区角田町8-7 阪急うめだ本店6階 HANKYU LUXURY
時間:10:00~20:00
無休

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