「服は芸術になりうるか」──スキャパレリが切り拓いた100年を辿る大回顧展がイギリスで開幕

シュルレアリスムの巨匠たちとのコラボレーションを軸に、ファッションとアートを交差させたエルザ・スキャパレリ(1890-1973)の革新性に迫るイギリス初の大規模展が、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)で3月28日から開催される(11月8日まで)。展覧会の6つの見どころを紹介する。

「スキャパレリ:ファッションはアートになる」展展示風景。Photo: Victoria and Albert Museum

イタリア生まれの伝説的ファッションデザイナー、エルザ・スキャパレリを紹介するイギリス初の回顧展「Schiaparelli: Fashion Becomes Art(スキャパレリ:ファッションはアートになる)」が、ロンドンヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)で3月28日からスタートする(11月8日まで)。100点の衣装、50点の美術作品に加え、アクセサリーやジュエリー、写真、家具、香水、アーカイブ資料などの計400点以上で、1925年の創業当時から、現在のクリエイティブディレクター、ダニエル・ローズベリーまでの100年にわたるメゾンのスタイルを網羅する。

同展について、V&A博物館のトリストラム・ハント館長は声明で、「ファッション史上でも最も独創的で大胆なデザイナーのひとりを称えるものになるでしょう。世界有数のファッション・コレクションを所蔵するV&Aは、イギリスにおけるスキャパレリの衣装コレクションも最大規模を誇ります。アーティストや舞台芸術とのコラボレーションを積極的に行った彼女の活動は、V&Aで壮大な展覧会を開催するに値するものです」と語った。本展のキュレーションはソネット・スタンフィル、リディア・キャストン、ロザリンド・マッケヴァーが担当する。

「スキャパレリ:ファッションはアートになる」展展示風景。Photo: Victoria and Albert Museum

本展は、スキャパレリがアーティストたちと行った協働に焦点を当てる。なかでもシュルレアリスムの巨匠サルバドール・ダリとのコラボレーションはハイライトのひとつで、1938年に共同制作した《スケルトン・ドレス》の現存する唯一の作例や、同年に制作された《ティアーズ・ドレス》、逆さまの靴を思わせる帽子などが展示される。

かつてスキャパレリは、「私にとってドレスデザインは職業ではなく芸術です」と語っている。その言葉を裏づけるかのように、ココ・シャネルは彼女を「服をつくっている、あのイタリア人芸術家」と評したこともあった。実際、スキャパレリはダリのほかにも、アルベルト・ジャコメッティメレット・オッペンハイム、ジャン・シュランバージェといったシュルレアリスムの画家や彫刻家、作家たちと協働し、既存の価値観の破壊や不条理を好む感性を共有していた。

また、アーティストたちはスキャパレリを作品のモデルにもしている。本展では、パブロ・ピカソマン・レイによるスキャパレリの肖像のほか、アイリーン・エイガーやジャン・コクトーが彼女のために制作した作品も紹介される。

さらに展示は現代へと視点を広げ、ローズベリーがアリアナ・グランデやデュア・リパといったトップパフォーマンス・アーティストのために制作した衣装も展示する。

そんな本展から、注目作品6点を紹介する。

1. マン・レイが撮ったスキャパレリ

マン・レイ《エルザ・スキャパレリの肖像》(1933)Photo: © 2025 Man Ray 2015 Trust. DACS, London / Collection SFMOMA

シュルレアリスムの写真家マン・レイは、スキャパレリの肖像写真を数多く制作した。中にはかなり実験的な作品や、彼女が手掛けた衣装と共に撮影されたものもある。この写真では、洋裁用マネキンや断片化された古典彫刻を思わせる胴体の上にスキャパレリの頭部が載せられている。

2. ダリの奇想天外な電話機《ロブスター・テレフォン》

サルバドール・ダリ《ロブスター・テレフォン》(1936)Photo: Tate / Tate Images

サルバドール・ダリの代表作のひとつ《ロブスター・テレフォン》(1936)。ダリはこの作品を「媚薬の電話(Aphrodisiac Telephone)」とも呼んでいた。ロブスターは石膏製で、イギリスの詩人であり芸術のパトロンでもあったエドワード・ジェイムズの依頼で、彼の邸宅の電話機に取り付けるために制作された。翌年、スキャパレリはこの作品に着想を得てロブスター柄のドレスをデザインし、雑誌「Vogue」ではセシル・ビートン撮影による8ページにわたる特集で紹介された。

3. 骨格が浮かび上がる《スケルトン・ドレス》

《スケルトン・ドレス》(1938)デザイン:エルザ・スキャパレリ、サルバドール・ダリ Photo : V&A © 2025 Salvador Dalí, Fundació Gala-Salvador Dalí, DACS. Photograph © Emil Larsson

1938年に発表した《スケルトン・ドレス》は、着用者の骨格が皮膚の下から浮かび上がるかのようなパッドを縫い込んだドレスで、当時の「上品さ」の概念に挑戦するものだった。この作品は、同年発表された有名な「サーカス・コレクション」の一部で、モデルたちはピエロ帽や風船型のバッグなど、遊び心あふれるアクセサリーを身につけて登場した。

4. 「ショッキング・ピンク」誕生の由来

香水ボトル《Shocking》(1937)デザイン:レオノール・フィニ Photo : © 2025 ADAGP, Paris and DACS, London. Photo_ Patrimoine Schiaparelli, Paris. Photograph © Emil Larsson

スキャパレリは1937年に香水「Shocking」を発売した。ボトルとパッケージのデザインは、アルゼンチン生まれのアーティスト、レオノール・フィニが手がけている。スキャパレリは、この香水の名にちなんで強烈なピンク色を「ショッキング・ピンク」と名付けたことでも知られる。

ボトルは仕立て屋のマネキンを模した形状で、首元にはメジャーが巻かれ、モノグラムの「S」のパッチと花の装飾で封が施されている。その曲線的なフォルムの着想源となったのは、ハリウッドのスターでありセックスシンボルとして知られていたメイ・ウエストの身体だった。ボトルはガラスのドームの中に収められており、花嫁が花冠を保存するために用いたケースを想起させる。

5. 破れたように見える《ティアーズ・ドレス》

《ティアーズ・ドレス》(1938年夏)デザイン:エルザ・スキャパレリ、サルバドール・ダリPhoto : Photograph © Emil Larsson

ダリがデザインを手がけた《ティアーズ・ドレス》(1938)は、引き裂かれたように見えるトロンプルイユ(だまし絵)の裂け目が特徴のイブニングドレスで、同じ模様のヴェールと一緒に発表された。ピンクやマゼンタの色が重ねられ、まるで切り裂かれたような錯覚を生み出している。

これも「サーカス・コレクション」の一部で、曲芸師や動物などのモチーフがあしらわれた衣装とともに披露された。このドレスは、破れた皮膚のような衣服を描いたダリの絵画とも呼応している。スキャパレリ自身も、そうしたダリの作品のひとつをコレクションしていたという。

6. ピカソが描いたミューズ

パブロ・ピカソ《ヌーシュ・エリュアールの肖像》(1937)Photo : © GrandPalais RMN (Musée National Picasso, Paris) Adrien Didierjean

パブロ・ピカソによる《ヌーシュ・エリュアールの肖像》(1937)。シュルレアリスムのミューズでありアーティストでもあったヌーシュ・エリュアール(詩人ポール・エリュアールの妻)は、スキャパレリの衣装を好んで身につけたことで知られる。この肖像では、1937〜38年秋冬オートクチュール・コレクションの帽子とジュエリーを着用している。天使の形のラペルピンは、ティファニーの天才ジュエリーデザイナー、ジャン・シュランバージェがスキャパレリのためにデザインしたものだ。(翻訳:編集部)

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