オルテンシア・エレーロ(Hortensia Herrero)
拠点: スペイン・バレンシア
職業:スーパーマーケットチェーン経営(メルカドーナ)
収集分野:近現代アート
スペインのスーパーマーケット王、フアン・ロイグの妻であるオルテンシア・エレーロは、スペインでも指折りのアートパトロンで慈善家だ。バレンシアの文化遺産保護に深く関わっているエレーロは、サン・ニコラス教会やコレジオ・デル・アルテ・マヨール・デ・ラ・セダなど、同地の重要な歴史的建造物修復の陣頭指揮を執っている。米フォーブス誌によれば、74歳になる彼女は、この取り組みに少なくとも1000万ドル(約14億6000万円)を投じたという。
エレーロのアートコレクションは地元バレンシアのアーティストを中心に始まったが、2013年にダラスのメドウズ美術館で開催されたスペインの画家、ホアキン・ソローリャの展覧会を訪れたことをきっかけに、世界各国の現代アーティストの作品へと対象が広がっていった。この旅で彼女が出会ったのが、キュレーターで同じバレンシア出身のハビエル・モリンス。彼はのちにエレーロの親友となり、彼女とともにアーティストのアトリエや各地のビエンナーレ、アートフェアを訪れ、国際的な視野で作品を探し、コレクションを構築するためのアドバイザーになった。
エレーロのコレクションは現在、バレンシアで17世紀に建てられたパラシオ・デ・ヴァレリオラに収められている。7年の歳月と4200万ドル(約61億円)の資金をかけて改修されたこの歴史的建造物は、オルテシア・エレーロ芸術センター(CAHH)と改名された。約2600平方メートルのゴシック建築の中に展示されているのは、ジョアン・ミロ、アレクサンダー・カルダー、ジャン・デュビュッフェといった20世紀の巨匠や、マット・コリショー、トマス・サラセーノ、ショーン・スカリーといった現代アーティストたちによるサイトスペシフィックな作品だ。
2012年、エレーロはバレンシアの文化に関する知識の向上や教育を促進・支援するオルテンシア・エレーロ財団を立ち上げ、芸術遺産の復興に力を注いでいる。2021年6月、同財団はバレンシア大司教区と協力し、1947年にスペインの歴史的・芸術的モニュメントに指定されたサントス・フアネス教会の修復プロジェクトを開始。教会の構造を安定させ、フレスコ画を復元することを目的としたこのプロジェクトは、600万ドル(約8億8000万円)以上の費用をかけ、2024年に完了している。
同財団はまた、バレンシア地域にあるダンスパフォーマンス関連団体の支援も行っている。その対象には、バレンシア・ダンザ・インターナショナル・キャンパス、アソシアシオン・デ・アルテ・イ・ダンサ・デル・メディテラネオ、エスター・モルテス・ダンス・スクールのほか、脳性まひの子どもたちの身体的・社会的セラピーにクラシックバレエを活用することを研究しているバレエ・ヴェイル+プロジェクトがある。
注:記事中の円換算額は、US版ARTnewsで2024年版トップ200コレクターズが発表された2024年10月時点の為替レートによる。