ピエール=オーギュスト・ルノワール《Paysage》(1896-1900)

キュレーションの力でオークションに物語を。「第1回ArtX Auction」が3月16日に開催

アート業界のDXを推進するプラットフォームを提供してきたArtXが、3月16日に新しいオークションをローンチする。「テクノロジーの力を用いてアートの排他性を打破する」ことを理念に掲げる彼らが運営するオークションとは? 背景にある課題意識や従来のオークションとの違いを取材した。

アートの排他性を打破し、芸術表現の普遍的な魅力を伝えたい

アートギャラリーのための管理クラウドなど、アート業界のニーズに特化した様々なツールやソリューションを提供することで日本国内のアート市場活性化を目指すArtX株式会社が、316日にアートオークション「ArtXAuction」を初開催する。

「世の中を実験しよう」をスローガンに掲げるアイザック株式会社のグループ会社として2022年にスタートしたArtXは、アート業界のDXを推進するソリューションを開発・提供する傍ら、グローバル・ライフスタイル・ブランドのRVCA(ルカ)及び、環境保護団体のGlobal Coralitionとのコラボレーションし、国内外の気鋭アーティストを支援するチャリティー展示「Dwellers」を開催するなど、ユニークな取り組みを行なってきた。その背景には、アイザック共同創業者でアートコレクターでもある播口友紀の 「テクノロジーを活用することでアートをより身近で包括的なものにし、アートの排他性を打破したい」という思いがある。

トーマス・ヘザリー《A Dream of Fairies》(1860年ごろ)

ArtXがオークションを初開催するにあたって掲げたテーマは、「THE PERENNIAL CURATION 時代を超えたキュレーション」。ArtXAuctionのディレクターを務める門間理子は、ビューティー業界で化学者として商品開発に携わりながら自身もアーティストとして作品制作や展示を行なってきた異色の経歴の持ち主。そんな彼女は、「多年草を意味するPerennialという言葉は、芸術の普遍的な本質と重なります。異なる時代と文明にまたがる芸術表現の多様で永続的な遺産を称えたい」と、第1回のテーマに込めた想いを説明する。

従来のオークションハウスは、現代、近代、古代など、特定の時代ごとにコレクションを区分することが多い。しかしArtXAuctionが他と一線を画すのは、様々な文明と時代を横断する美術品をキュレーションして見せることで、「普遍的なテーマを強調し、芸術表現の時代を超えた魅力を紹介すること」に主眼を置いている点だ。

今回出品されるのは、主にヨーロッパのコレクターから集められた様々な区分を超越する作品の数々。ロット数は28と少ないが、オークションとしての「規模」よりも「質」を重視した結果だという。

ローマン・ガラス(1-2AD)、作者不明
デヴィッド・ホックニー《My Mother is Sleeping》(1982)

そのラインアップは、例えば「芸術的な良し悪しについては議論があるが、時代を超えた魅力がある」と門間が語るローマン・ガラスから、18世紀後半のフランス・ロココを代表する画家、ジャン・オノレ・フラゴナールの《A Statue in a Garden》(1760年ごろ)。サフラジェット(参政権運動家)の妻に触発され、女性たちの多様な美を描くことで女性たちの権利を支持したトーマス・ヘザーリーの《A Dream of Fairies》(1860年ごろ)や、フランス印象派を代表するオーギュスト・ルノワールの《Paysage》(1896-1900)。また、イギリスの芸術家でモダニズム彫刻の先駆者とも呼ばれるバーバラ・ヘップワースの《Sculpture with Colour》(1940)にルシアン・フロイトが2番目の妻キャロライン・ブラックウッドに宛てた手紙(1950年代)、デヴィッド・ホックニーのフォトコラージュ《My Mother is Sleeping》(1982)まで、多岐にわたる。一見何の共通点もないように思えるが、作品群をまとまりとしてじっくり眺めていくと、それらにはパーソナルな人間性が通底していることがわかる。

ArtXAuctionは、カタログやプレビューイベントなどを通じて、出品作品の文化的背景をより深く理解するための教育プログラムも提供するという。幼少期から現代アートと日本伝統に親しんできたArtXAuctionのプログラムプロデューサー、和多利有は、「美術品と潜在的なコレクターとの間に教育的な橋渡し役を担うことも、私たちのミッション」と語る。

バーバラ・ヘップワース《Sculpture with Colour》(1940)

個人の成長を促すような体験をつくりたい

オークションの会場選定にも、彼ららしさが垣間見える。第一回の舞台となるのは、東京・新宿区に1927年に建てられたコロニアル様式の歴史的建造物、小笠原伯爵邸だ。「親しみある空間でアートと触れ合う機会を提供することで、深い喜びと個人の成長を促すような体験を得るための門戸を開きたい」と述べる和多利は、「最終的にArtXAuctionは、多様で知識豊富なアートコレクターのコミュニティを構築することを目指しています」と続ける。

もうひとつユニークなのは、今回のオークション売上の3%を海洋環境保護に取り組むパートナー団体、Global Coralitionに寄付するという仕組みだ。そこには、「アートの市場価値と同じように、その文化的・社会的意義が日本において理解され、評価される風土を育んでいきたい」というメンバーたちの思いがある。

一方で、どんなに熱い思いが立ち上げの背後にあっても、参加者がいなければオークションは成立しないし、彼らの理想が叶えられることは難しい。そうならないためにも、例えばオンラインで入札に参加したい初心者の人が直感的に扱えるオンラインプラットフォームを設計するなど、ArtXの事業で培ってきたテクノロジーを駆使した様々な工夫を施しているという。

おそらく自らのコレクターとしての経験もあるのだろう。播口は、「アクセスのしやすさや価格のバリエーションなど、インクルーシブなオークションであることが重要。アートに興味のある人たちに、できる限り身近で楽しいコレクションの第一歩を体験してもらいたいんです」と語る。

第一回ArtXAuctionの会場となる小笠原伯爵邸。Photo: Courtesy ArtXAuction

ArtXAuction - THE PERENNIAL CURATION 時代を超えたキュレーション』
日時:2024316(土)18:00 - 21:00
会場:小笠原伯爵邸
参加方法:オンライン・事前入札・電話入札・会場入札

プレビューイベント Vol.1
日時:312日火)313()
会場:東京都港区 会員制レストラン

プレビューイベント Vol.2
日時:
315 () 11:00 - 19:00316 () 11:00 - 17:00
会場:小笠原伯爵邸

オークション及びプレビューに関するお問い合わせ:[email protected]

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