米美術館、リーマン・ブラザーズ創業者子孫が寄贈したベニン王国の略奪文化財をナイジェリアに返還
ボストン美術館が所蔵していたベニン王国の略奪文化財が、6月末にナイジェリアに返還された。ベニン王国は現在のナイジェリア・ベニンシティ周辺の海岸部で栄えた王国で、19世紀末にイギリスの軍事攻撃で財宝を略奪され、植民地化されている。

ボストン美術館は、12年にわたり所蔵していたベニン王国の文化財2点をナイジェリアに返還した。同館の諮問委員会のメンバー、アリーズ・キャリントン博士の主導で実現したもので、博士は今回の返還を「非常に意義深い出来事」だとし、声明でこう述べている。
「2点の略奪文化財は本来の適切な所有者に返還され、それらの文化的・精神的価値が発揮される場所に戻されます」
返還された2点、テラコッタと鉄でできた記念頭像(16世紀または17世紀)と、剣を掲げた2人の官吏を描いたブロンズのレリーフ板(16世紀)は、1897年にイギリスがベニン王国を軍事征服した際に略奪された。
ボストン美術館の来歴説明によると、頭像は1899年にロンドンで、「ベニン王国から略奪された他の美術品とともに、美術商のウィリアム・カッターから、やはり美術商のウィリアム・ダウニング・ウェブスターに売却された」という。一方のレリーフは、1897年にベニン王国を攻撃したイギリス軍が持ち出し、翌98年、イギリスのニジェール海岸保護領のクラウン・エージェントと呼ばれる公社によって売却された。
その後、イギリスの考古学者オーガスタス・ピット=リバーズが自分の名を冠した博物館のためにこの2点を購入したが、1960年代に所蔵品の一部が散逸。60年代から80年代にかけて、ベニン王国の美術品を収集していたアートコレクターのロバート・オーウェン・リーマン・ジュニア(2008年に経営破綻した投資銀行リーマン・ブラザーズ創業者の曾孫)が2点を入手した。リーマン・ジュニアは2013年と18年に、それぞれ頭像とレリーフをボストン美術館に寄贈している。
同館は以前、リーマン・コレクションの多くが、「競売やディーラーからの購入によって入手されたもので、その来歴は1897年のベニン攻撃までさかのぼれる」ことを認めていた。
頭像とレリーフは、6月27日にニューヨークのナイジェリア領事館で行われた式典で、ベニン王族のアガティス・エレディアウワ殿下と、サムソン・イテグボジェ大使に引き渡された。その席でボストン美術館は次のように述べている。
「ナイジェリアの国立博物館・記念物委員会はワシントンD.C.のナイジェリア大使館と協力し、2点の文化財の取り扱い、管理、ナイジェリアへの輸送、正当な所有者であるベニンのオバ(王)への引き渡しを行います」
6月27日の返還式には、ナイジェリアのアブバカル・ジッダ領事、ボストン美術館のマシュー・タイテルバウムCEOのほか、同館の学芸・保存責任者ピエール・テルジャニアン、来歴担当シニアキュレーターのヴィクトリア・リード、ニューヨークのベニン・コミュニティのメンバーも立ち会った。
ボストン美術館は、この4月にベニン王国ギャラリーを閉鎖している。同ギャラリーは、リーマン・ジュニアが収集した西アフリカ文化財コレクション(16世紀から18世紀のベニン・ブロンズ30点を含む)寄贈の意向に基づいて2013年にオープンしたが、閉鎖に伴いほぼ全ての品がリーマン・ジュニアに返却された。ちなみに、同氏から寄贈されたうちの5点は、6月下旬に同館のアート・オブ・アフリカ・ギャラリーで展示される予定だった。
ボストン美術館はまた、リーマン・ジュニアが寄贈したベニン王国の文化財3点が、所蔵品として残されていることを明かした。その理由は、出所に関する結論が出ていないためだとし、こう説明している。
「この3点の出所は、20世紀後半のヨーロッパとアメリカの美術市場にまでさかのぼることができますが、いつ、どのようにしてベニン王国から持ち出されたかは確認できていません。現在も来歴調査を続けています」(翻訳:石井佳子)
from ARTnews