ARTnewsJAPAN

三浦大地とWWFジャパン「よみがえれ!コアラの森」プロジェクトがコラボレーション! 第1弾はチャリティTシャツを販売

2019年にオーストラリアで発生した、史上最大規模の森林火災。オーストラリアの森の回復や世界的に深刻化する気候変動問題へ取り組むべくWWFジャパンが2021年から始めた「よみがえれ!コアラの森」プロジェクトは、より多くの人々に自然環境を意識してもらうべく、今年6月からアーティスト三浦大地とのコラボレーションプログラムを始動する。世界中で深刻化する環境問題に対し、果たしてアートやアーティストはどんな力を発揮できるのだろうか。

Photo: Courtesy of Daichi Miura

史上最大の森林火災でコアラが絶滅の危機

2019年、オーストラリアで同国史上最大規模の森林火災が発生した。11月頃から深刻化した火災は翌年2月まで続き、類焼面積は1,700万ヘクタール(北海道2つ分に相当)を超え、数千軒の建物が焼失。さらには貴重な野生動物の生態系も深刻な影響を受け、なかでもオーストラリア固有種として知られるコアラは6万匹もの個体が死亡したり怪我を負ってしまったりしたという。

「炎に包まれる中で救助隊がコアラを抱きかかえている映像を観て、居ても立ってもいられなくなったんです。もともとオーストラリアが好きで何度か訪れたこともありましたし、アーティストとしてどうにかこの状況に働きかけられないかと思い、チャリティプログラムを立ち上げました」

そう振り返るのは、アーティストの三浦大地だ。2020年1月、三浦は自らオリジナルTシャツをデザインし、受注生産を開始。受注期間はわずか10日間ながら数千件の注文が集まり、その利益はすべてWWFジャパンをはじめとする野生動物の救護や自然再生支援に取り組む団体へ寄付された。

「当時の日本には寄付の文化もあまり根づいていませんでしたが、多くの反響をいただけました。購入した方々同士がつながりコミュニティも生まれましたし、大量生産・大量消費を加速させ環境負荷を高めているファッション産業を見直す意味でも、過剰生産を行わず必要な人に必要なモノとお金が回る状況をつくれたことがうれしかったです」

© WWF-Australia / Mark Symons

アーティストの勇気が生んだ大規模チャリティ

あれから4年、実はいまなおコアラの生態系は危機に瀕している。WWFジャパンの調査によれば、火災などに伴う生息地の減少はもちろんのこと、近年はストレスの増加により疫病が広まるなど、年々個体数は減少の一途を辿っているという。4年前の火災は気候変動によって大規模化した側面もあり、地球全体の環境問題を解決しなければ収束しないのだ。

ニュースなどでこの問題が報じられる機会も減りつつあるなか、どうすれば多くの人々にオーストラリアの危機的状況を知ってもらえるのか──2021年からオーストラリア東部の森林保全を進めるプロジェクト「よみがえれ!コアラの森」に取り組んできたWWFジャパン(世界自然保護基金ジャパン)は、三浦とのコラボレーションプログラムへ踏み出した。

「ぼく自身、4年前に寄付を行った森林やコアラの生態系がいまどういう状況にあるのか知りたかったですし、多くの方に伝える義務があると思いました。オーストラリアの森林はもちろんのこと、いま改めて、自分たちが住んでいる地球の自然環境に興味をもってもらうきっかけをつくりたかったんです」

三浦はWWFジャパンとのコラボレーションをすぐに快諾し、作品の制作に取りかかった。6月27日から始まった第一弾のプログラムでは三浦が今回のために描き下ろした作品があしらわれたTシャツが販売され、今後も一年間かけてさまざまなアイテムが発表される予定だ。オーストラリアのみならず世界の自然保護に取り組むWWFジャパンが生産を手がけることもあり、それらすべてのアイテムには、GOTS認証をはじめ、地球の生態系に配慮した計画的な管理・生産を示す国際認証をクリアした素材が使われている。

三浦とコラボレーションしたTシャツは6月27日からWWFジャパンの公式オンラインショップ「PANDA SHOP」で好評販売中。S〜XLサイズ、すべて1万4000円(税込)。

あえて悲痛な災害を思い出させる意味

「今回Tシャツのグラフィックとして採用した作品は、あえてあの火災を思い出させるような、救助隊に抱きかかえられたコアラを描いたものです。もちろんピースフルでかわいいコアラの作品をつくることもできましたが、ある意味ショックを与えるような作品をつくることで、再び多くの人々が自然環境に関心をもってくれるのではないかと考えました」

今回発売されるTシャツには、三浦の作品のシグネチャーとも言える女性が救助隊の防護服に身を包み、コアラを抱きかかえる姿が描かれている。

「コアラって、人間にもハグしてくれる動物ですよね。種族の境界を超えて信頼する姿に、ぼくたち人間が見習うことは多いと思いましたし、当時救助隊がコアラと抱き合う映像を見て、励まされました。ショッキングでもあり、癒やしも感じさせる、両極の感情を今回の作品では表現しています」

WWFの活動もまた、これまで私たちが自然から大きな恩恵を受けてきたからこそ、動物や自然と人間がより調和できる環境をつくるために行われてきたものでもある。WWFはオーストラリアで100を超えるNPOや団体とともに森林保護の活動を展開しているが、なかにはこれまで自分たち人間が自然から一方的に利益を享受し、ときにはその破壊に与してしまったからこそ、積極的に森林保護に取り組もうとする人々も少なくないという。

これまで「よみがえれ!コアラの森」プロジェクトでは現地団体のサポートや森林保護区の拡大はもちろんのこと、ドローンを用いた新たな植樹の検証などさまざまな取り組みが進んでいた。さらに今後は、広告の出稿のみならず今回のようなコラボレーションを通じてより多くの人に環境問題を知ってもらうきっかけをつくっていくことが予定されている。

© WWF-Australia / Patrick Hamilton

アートを通じて未来へ継承される希望

環境保護において植樹のような取り組みが重要なことは言うまでもないが、新たに木を植えたからといって数年で状況が好転するわけではないことも事実だ。とくに近年は異常気象により火災や洪水も増えているため、実際にWWFが行った植林も洪水で流されてしまったことがあったという。10〜20年かけて継続的に活動を進めていく必要があるからこそ、理解を示してくれる住民を増やすことや、ともに活動へ取り組んでくれるパートナーを増やしていかなければいけない。

より多くの人々を巻き込んでいくうえで、今回のようなアーティストとのコラボレーションは大きな意味をもちうるだろう。チャリティとしてオリジナルプロダクトを販売するだけでなく、パートナーとなってくれるアーティストとの展示プログラムやオークションの開催など、さまざまな可能性も開かれている。実際にWWFシンガポールではトラの保全のためにサザビーズと共同でチャリティオークションを実施し、WWFドイツはNFTアートを活用するなかで、WWFジャパンもアーティストやアートのもつエンパワメントの力に大きな可能性を感じていることを明かしている。

「アートは直接的にメッセージを伝える文章や写真とは異なる力をもっていると思っています」と三浦も指摘する。「アートに目を向けると、人は一瞬でべつの世界へ意識を飛ばせますよね。いわば、ポータルサイトのような機能をもっている。今回のプログラムも改めて自然環境へ意識をシフトさせるものですし、自然や動物に目を向けることで、自分たちのことも愛せるようになるのではないかと感じています」

三浦が今回のコラボレーションを通じて自然環境への意識を高めようとするように、「よみがえれ!コアラの森」プロジェクトもまた、コアラの保全だけを目的としているわけではない。現に2019年の火災によってコアラ以外にも多くの希少動物の存続が危機に瀕しており、WWFジャパンはより多くの生物種を守っていかなければいけないことを明かしている。

© WWF-Australia / Sii Studio

自然環境の保護を考えるうえで、何より重要なのは「継続」なのだろう。いま行われている保全活動の成果を見るのは次の世代であり、世代を超えて活動を続けていくことが必要不可欠となる。そのためにも、未来への希望を絶やしてはいけないはずだ。

世代を超えて価値が受け継がれていくアートは、人間と自然をつなぐ新たな回路を生み出すものでもあるのかもしれない。三浦もまた、アートだからこそ可能な環境へのコミットメントがありうるはずだと語り、今回のプロジェクトへの希望を明かした。

「もちろん環境への配慮は重要ですが、『環境にいい』だけがモチベーションになるのはヘルシーじゃないと思うんです。まず『かわいい』や『着たい』と思えることが大事だし、だからこそ活動もサステナブルなものとなる。そのためにはアーティストやデザイナーがまず楽しみながらクリエイティブを通じて環境問題に取り組む必要があるはずです。今回のプロジェクトを通じて、こうした取り組みがもっと多くのクリエイターにも広がっていくことを願っています」

三浦大地とのコラボレーションによるTシャツは、現在WWFジャパンの公式オンラインショップ「PANDA SHOP」で販売されているほか、「よみがえれ!コアラの森」プロジェクト特設ウェブサイトでは、2024年8月31日まで寄付キャンペーンプロジェクトも実施中だ。