大英博物館リニューアルは気鋭の女性建築家リナ・ゴットメに決定。大阪万博のバーレーン館も設計
大英博物館による大規模リニューアルプロジェクトのコンペで、レバノン出身の女性建築家、リナ・ゴットメが選出された。同博物館が再生をかけて進めている「マスタープラン」の一環として行われるリノベーションは、世界最大級の規模となる。

2月21日、大英博物館は昨年5月から9カ月にわたり行われていた大規模改修コンペの結果を発表。レバノン出身で、現在パリを拠点に活動する女性建築家、リナ・ゴットメの設計案が採択された。コンペに提出されたパース図では、石組みによる洞窟のような展示室に大英博物館のコレクションがゆったりと配置されている。
大英博物館は現在、ロンドン中心部にある1850年完成の建物の再開発に加え、市外に収蔵庫を新設する「マスタープラン」プロジェクトを進めている。博物館の建物で大規模改修の対象となっているのは、博物館の約3分の1を占める西側エリアの展示スペースとバックヤードだ。
ウエスタンレンジと呼ばれるこのエリアには、古代エジプトやアッシリア、古代ギリシャ、古代ローマの遺物など、大英博物館の中でも最も印象に残る歴史的展示物が多数あり、ギリシャへの返還問題がいまだ完全な解決に至っていないパルテノン神殿の大理石彫刻もこの区画に展示されている。
大英博物館の声明によると、審査員は満場一致でゴットメの設計事務所、リナ・ゴットメ・アーキテクチュア(以下、LGA)を選出。昨年5月から始まったコンペには当初60件の応募があり、ファイナリストは大御所のデイヴィッド・チッパーフィールド・アーキテクツやOMAなど5社に絞られていた。最終審査の決め手になったのは、ゴットメの「考古学的」なアプローチで、それが200万年にわたる人類の歴史を保存し、伝えていくという大英博物館の使命と合致している点だったという。
1980年にレバノンのベイルートで生まれたゴットメは、現在パリにLGAの事務所を構えている。近年のプロジェクトには、ベイルートの住宅建築「ストーン・ガーデン」(2020年)のほか、エルメスがフランス・ノルマンディーにオープンしたレザーグッズ工房やエストニア・タルトゥの国立博物館(いずれも2023年)があり、同じ2023年にはロンドンの夏の風物詩であるサーペンタイン・パビリオンの設計を委託された。彼女のパビリオンは食事と対話による人々の交流がテーマで、マリの伝統建築を参照した低い屋根や円形テーブルが特徴的だった。
なお、このパビリオンは、ケンジントン・ガーデンにあるサーペンタイン・ギャラリーが2000年夏、同館の30周年を祝う特設会場の設計をザハ・ハディドに依頼したことから毎夏設営されるようになったもの。過去には、オラファー・エリアソンとニューヨークの建築事務所スノヘッタ(2007年)、ヘルツォーク&ド・ムーロンとアイ・ウェイウェイ(2012年)、シアスター・ゲイツ(2022年)など、現代アート作家もパビリオン建設に携わっている。
さらにゴットメは、4月13日に開幕する大阪・関西万博にもバーレーン館の設計で参加。ペルシャ湾に浮かぶバーレーン王国は、古くから海洋交通の要衝だった。ゴットメの設計は、同国の海洋文化の歴史を表す伝統的な帆船に着想を得たもので、日本の木造技術も生かされている。
大英博物館は、前述したパルテノン神殿彫刻の返還のほかにも、元キュレーターによる収蔵品窃盗事件、石油大手BPからの寄付が環境活動家や市民から非難されている問題など、数々の課題に直面している。館長のニコラス・カリナンは、昨秋の就任時に「世界のどの美術館よりも大きな変革をリードするつもり」と意気込みを語っていたが、今回の選考結果についても「物理的な面だけでなく、知的な面でも、世界のどの美術館よりも大きな変革となる」として「変革」を強調した。
こうした中での大改修プロジェクトは、大英博物館の再生がかかっていると言ってもいいだろう。ゴットメは、その一端を担うことになる。