大英博物館は盗難スキャンダルを乗り越えられるのか。新館長が「世界最大の博物館変革」を約束

ロンドンナショナル・ポートレート・ギャラリー(NPG)の元館長で、新たに大英博物館の館長に就任したニコラス・カリナン。一連の盗難スキャンダルにより社会的信用が失墜した同館の「再生計画」について、カリナンに聞く。

ニコラス・カリナン(右)とコートニー・ラブ。Photo: Courtesy Dave Benett/Getty Images for Nat

今年6月、暫定館長のマーク・ジョーンズの後任として館長に就任したニコラス・カリナンは、タイムズ紙の取材に対して「私は世界のどの美術館よりも大きな変革をリードするつもりです」と意気込みを語っていた。その仕事には博物館の評判の回復だけではなく、デジタル拡張と3500の部屋と展示室の改修を含む13億ドルの基本計画の監督も含まれる。

大英博物館は2000点あまりの収蔵品が盗まれた事件を受けて、2023年からセキュリティーに関する独自の見直しを開始した。盗難の容疑で訴えられたシニアキュレーターのピーター・ヒッグスは昨年7月に解雇されたが、犯罪への関与を否定している。当時の館長だったハートヴィヒ・フィッシャーは、ヒッグス解雇の翌月に辞任し、盗難に対して「あるべき包括的な対応ができなかった」ことを認めた。盗まれた品々には金のジュエリー、宝石、古代のガラスなどが含まれ、その多くは既に回収されている。

この事件は解決済みであると考えるカリナンだが、その経験から「教訓を得て、明確な措置が講じられました」と語り、800万点にものぼる所蔵品のデジタル化という壮大な計画も、その代表例であると胸を張る。

しかし、大英博物館が直面した試練は盗難問題にとどまらない。2023年末、イギリスの元財務大臣ジョージ・オズボーンが理事長を務める大英博物館の管理委員会は、石油大手BPから6500万ドル(現在の為替レートで約91億円)の寄付を受けとっており、市民や活動家たちから「驚くほど感覚がずれている 」と激しいバッシングに遭った。

カリナンは、5500万ドル(現在の為替レートで約77億円)の予算が投じられたナショナル・ポートレート・ギャラリー(NPG)の改装プロジェクトをリードし、高い評価を得た人物だ。そしてNPG時代にもBPとの関係を断ち切ることに成功している。

タイムズ紙に、「寄付金を吟味する基準は2つある」と語ったカリナンは、こう続けた。

「ひとつは、寄付を受け入れることで評判が損なわれるかどうか。大英博物館の無料公開を維持するための寄付を断るには、明確な理由が必要です。そして入場無料は、私がこの国に留まる大きな理由のひとつであり、大英博物館を特別な存在にしている重要な要素なのです」

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