ジェフ・クーンズが30年前の作品の著作権侵害で訴えられるも却下。「侵害に気付くのが遅すぎる」

ジェフ・クーンズが前妻で元ポルノスターのイローナ・スタラーとの性行為の様子が描かれた代表作「メイド・イン・ヘブン」シリーズが、著作権を侵害しているとして舞台美術家がクーンズを訴えた。しかし、作品が制作されてから30年以上経過していることから訴えは時効であるとニューヨークの裁判所は言い渡した。

ニューヨークのニューミュージアムで開催されたスプリング・ガラに出席したジェフ・クーンズ。2024年4月に撮影。Photo: Dominik Bindl/Getty Images
ニューヨークのニューミュージアムで開催されたスプリング・ガラに出席したジェフ・クーンズ。2024年4月に撮影。Photo: Dominik Bindl/Getty Images

ジェフ・クーンズが前妻であるイローナ・スタラーとの性行為の様子を描いた代表作「メイド・イン・ヘブン」シリーズ(1989-90)が著作権を侵害しているとして、舞台美術家マイケル・A・ヘイデンが2021年に起こしていた訴訟がこのほど却下された。

ヘイデンがニューヨーク南部地区連邦地方裁判所に提出した訴状には、「メイド・イン・ヘブン」シリーズの作品に、ヘイデンが手がけた舞台背景や小道具が描かれており、自身の著作権が侵害されたと記されている。

しかし、地方裁判所の判事、ティモシー・ライフは、30年以上も前に制作されクーンズの作品を訴えるには時間をかけすぎたと結論づけており、ヘイデンの主張は時効であるという判決を下した。

裁判文書によると、同シリーズが制作された当時、ヘイデンは「ライブパフォーマンスや映画、写真、そしてそれらに関連する成人向けコンテンツを制作するイタリアの制作会社」、ディーヴァ・フューチュラの舞台背景と小道具を手がけていた。この制作会社を所有していたのはクーンズの前妻、イローナ・スタラーで、彼女はイタリア議会の議員でもあり、イタリアの超有名なポルノ女優「ラ・チッチョリーナ」だった。ヘイデンは1988年、ラ・チッチョリーナのために発泡スチロールで「巨石の台座に巻きつく巨大な蛇」のセットを制作。ディーヴァ・フューチュラ社はこれを900ドル(現在の為替で約13万円)で購入した。

1993年、ドイツのシュトゥットガルト州立美術館で展示されたジェフ・クーンズ「メイド・イン・ヘブン」。Photo: Wolfgang Kuhn/United Archives via Getty Images

その後、クーンズとスタラーは「メイド・イン・ヘブン」シリーズの舞台にこのセットを使った。このシリーズは、ヘイデンのセットの上で性交するクーンズとスタラーの油絵やリソグラフの看板、木彫りなどさまざまな作品が含まれている。同シリーズは1990年のヴェネチア・ビエンナーレで発表されたが、そのセンセーショナルな内容にイタリアのニュースメディアは大々的に取り上げた。

クーンズたちは1991年に結婚し、3年後に関係は破綻。その後は親権などを巡り長年の争いが繰り広げられた。そんな中、2019年にヘイデンはクーンズがサザビーズで「メイド・イン・ヘブン」を展示した事に対してスタラーが訴訟を起こしたというイタリアの新聞記事を目にし、著作権侵害を知ったという。ヘイデンは蛇の彫刻と台座の著作権登録申請を2019年8月7日に米国著作権局に提出し、2021年12月にニューヨーク南部地区連邦地方裁判所に訴状を提出した。

ヘイデンの訴えを退ける文書にライフ判事は、次のように記している。

「原告が合理的かつ几帳面な人物であれば、2019年より前に侵害の疑いのある作品を発見していたはずです」

「スターラーのような著名人のために特別に彫刻や舞台装置を制作し、イタリアのニュースを追えている人物であれば、ヴェネチア・ビエンナーレのような国際的な美術展にスターラーが参加したことについて耳にするのは当然のことではないでしょうか」

ヘイデンの弁護士を務めたジョーダン・フレッチャーはロイターの取材に対して、同氏と依頼人は判決に不服を申し立て、控訴するつもりだと語った。

クーンズの弁護は法律事務所のスカローラ・ズバトフ・シャフジンに所属するダニエル・ブルックスが、ヘイデンの弁護はジョーダン・フレッチャーと、オーウェン・ウィッカーシャム&エリクソンに所属するリンダ・カトウィンケルが担当した。(翻訳:編集部)

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