ネルソン提督「最後の贈り物」がオークションへ。複雑機構を搭載した「ヴィクトリー・ウォッチ」
サザビーズの時計オークションに、イギリス海軍提督ネルソンの「ヴィクトリー・ウォッチ」が出品され、注目を集めている。大勝利を収めたトラファルガーの海戦で戦死したネルソン提督は、同海戦に先立って海軍将校たちから懐中時計を贈られた。この歴史的な時計がオークションに出品されるのは20年ぶり。
サザビーズの今年最後となる時計オークション、「ファイン・ウォッチ」の目玉となっているのが、ホレイショ・ネルソン提督の懐中時計「ヴィクトリー・ウォッチ」だ。予想落札価格は20万から40万ポンド（約4100万〜8300万円）と、12月17日に入札が締め切られるオンラインオークションの51点の時計のうち、最も高い予想価格が付けられている。
イギリス史上最大の英雄の1人である伝説的な海軍軍人ネルソン提督は、1805年の夏に戦列艦ヴィクトリー号の将校たちから懐中時計を贈られた。そのわずか2カ月後、ネルソンはトラファルガーの海戦でナポレオンが派遣したスペイン・フランス連合艦隊を撃破し、その名を歴史に刻んだ。しかし、この海戦でネルソンは戦死している。
サザビーズのオークションカタログによると、この時計は「金メッキを施した金属、金、エナメルが用いられ、アラームや月齢表示、2種類のメロディを奏でる機構のほか、複雑機構のフライングフィフスが備わっている」という。なお、ロンドン時間で12月17日早朝時点の入札額は7万ポンド（約1450万円）となっている。
ヴィクトリー号で2年間を洋上で過ごしたネルソン提督は、愛人エマ・ハミルトン夫人と暮らすサリー州マートン・プレイスの自宅に戻る少し前の1805年8月20日に、この時計を贈呈された。それは提督が家庭での生活に戻ることを祝うものだったが、結局は海上の戦いにすぐ舞い戻ることになった。サザビーズのカタログには次のように記されている。
「ネルソンは疲弊して帰還した。大西洋を横断する必死の追跡の末に敵を逃がしてしまったことに不安と苛立ちを覚えていたが、イギリスに着いたときには熱狂的に歓迎されている。ただ、敵艦隊の集結という脅威は依然解決されておらず、ネルソンは日中ずっと海軍本部の会議や閣僚たちとの協議に臨んでいた。9月2日、フランス艦隊とスペイン艦隊がスペインのカディスで合流したという知らせがロンドンに届くと間もなく、ネルソンを呼び戻す命令が下された」
サザビーズ・ロンドンの時計部門スペシャリスト、ハビエル・アレナスは、ヴィクトリー・ウォッチの出品に関し、US版ARTnewsの取材にこう答えている。
「時計製作史上、類まれな傑作の出品をとても光栄に思います。その来歴、そしてヨーロッパ史における重要な史実に関係していることが、この逸品に比類のない価値を与えています。宝石のようなこの時計の新たな所有者は、ネルソン提督の輝かしい遺産の一部を託されることにもなります。それは間違いなく、彼が海の上で亡くなる前に誰かから受け取った最後の重要な贈り物の1つ──おそらくは本当に最期の贈り物です」（翻訳：石井佳子）
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