長谷川祐子がヴェネチア・ビエンナーレ シリア館キュレーターに就任。内戦を経たシリアの喪失と回復を《パルミラの塔墓》で描く

第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展(2026年5月9日〜11月22日)の国別パビリオン、シリア館のキュレーターに長谷川祐子が就任することが2月2日に発表された。長期にわたる内戦を経ての開催となる同館では、シリア人アーティスト、サラ・シャマによる個展が行われる。

(写真左)長谷川祐子。撮影:木奥 惠三 (同右)サラ・シャマ。撮影:モハンマド・アザート

2月2日、第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展(2026年5月9日〜11月22日)の国別パビリオン、シリア館のキュレーターに長谷川祐子が就任することが発表された。

長谷川祐子は、水戸芸術館学芸員、世田谷美術館学芸員、東京都現代美術館チーフキュレーター、金沢21世紀美術館館長などを歴任。2025年より京都大学経営管理大学院客員教授を務めている。これまでイスタンブール(2001)、上海(2002)、サンパウロ(2010)、シャルジャ(2013)、モスクワ(2017)、タイ(2021)など、数多くの国際展やビエンナーレをキュレーションしてきた。

長期にわたるシリア内戦(2011–2024年)を経て初の開催となるシリア国立パビリオンは、これまで主流であったシリア人アーティストのグループ展示と招待制の国際アーティストを併せて紹介する形式を改め、1人のシリア人アーティストによる個展形式を採用する。

そのアーティストに選ばれたのが、シリア・ダマスカス出身のサラ・シャマだ。1975年生まれのシャマはダマスカス大学で美術を学び、「Echoes of 12 Years」(ダマスカス国立博物館、2024–2025)、「Modern Slavery」(キングス・カレッジ・ロンドンおよび英国各地の大聖堂巡回、2019–2021)など、ヨーロッパや中東をはじめ世界各地で25以上の大規模な個展を開催してきた。作品はダマスカス国立博物館、ブリティッシュ・カウンシル、UAE文化省などの公共コレクションおよび個人コレクションに収蔵されている。イギリスで8年間活動した後、2024年にダマスカスへ完全帰国した。

シャマの作品は、感情のこもった人物画で知られ、人間の存在を中心テーマに、喪失、回復力、アイデンティティ、記憶、移動といった問題を、心理的表現力に富んだ人物像を通して探求している。

今回、長谷川と共に創り上げる展覧会のタイトルは「パルミラの塔墓」。パルミラは、シリア・アラブ共和国中部にある古代遺跡で、かつてギリシャ・ローマ、アラム、アラブの文化が交差し、異なる宗教や背景を持つ人々が調和と寛容、相互尊重のもとに共存していた場所だった。しかし、紀元1世紀から3世紀にかけて建てられた葬祭用の塔墓は、戦争によって全て破壊された。さらに、数百点に及ぶ葬送肖像が略奪され海外で売買されるなどし、塔墓は文化的喪失を象徴する存在となった。

展示の中心となるのは、失われた古代パルミラの塔墓から着想を得た大規模な没入型インスタレーションだ。シャマは本作について、プレスリリースで次のように語っている。

「《パルミラの塔墓》を通して、私はシリアの文化遺産と人々の強靭さに敬意を表したいと考えています。たとえ破壊されても、パルミラの塔墓は私たちの歴史の力強さと多様性を語り続けています。この展覧会は、喪失を振り返るだけでなく、希望、連帯、そして共有された遺産を守り、回復させる重要性を伝えるものです」

また長谷川は、次のようにコメントしている。

「サラ・シャマの作品は国民的な物語を超え、パルミラの歴史を通じて、記憶、喪失、文化の回復力という普遍的なテーマを探求しています。本展は没入型の体験を通してこれらのテーマを観客に提示し、シリアを世界の現代美術の議論の中に確固たる形で位置づけるものです」

展覧会は、ヴェネチア建築大学(IUAV)コトニフィチオ・キャンパスの中庭に位置するシリア国立パビリオンで開催される。

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