吉増剛造、第1回「サーペンタイン × FLAGアート賞」受賞──60年以上にわたる領域横断的な実践が評価
東京を拠点に活動する詩人・アーティストの吉増剛造が、サーペンタイン・ギャラリーとFLAGアートファンデーションによる新設の国際美術賞「サーペンタイン × FLAGアートファンデーション賞」の初回受賞者に選出された。

東京を拠点に活動する詩人・アーティストの吉増剛造が、サーペンタイン・ギャラリーとFLAGアートファンデーションによる新設の国際美術賞「サーペンタイン × FLAGアートファンデーション賞」の初回受賞者に選ばれた。賞金は20万ポンド(約4300万円)で、ロンドンとニューヨークでの個展開催も副賞として贈られる。
2組織が連名で国際美術賞を新設
2025年12月、ニューヨークを拠点とするFLAGアートファンデーションは、この賞の創設にあたり100万ポンド(約2億1300万円)を拠出すると発表した。隔年で開催され、計5人のアーティストにそれぞれ20万ポンドが授与される仕組みで、イギリス国内の同種の美術賞としては最高額の賞金となる。賞金は、受賞アーティストが「新たな大規模な作品群を開発・発表し、さらに実践の新たな方向性を探るための自由な時間や物質的なサポートを得る」ことを目的としている。
声明によれば、受賞対象となるアーティストは、年齢や出身地を問わず、プロとしての展示活動開始から10年未満であり、国際的な美術館やギャラリーでの展示歴、受賞歴、批評掲載、出版などを通じて実績を積極的に築いていることが条件とされている。ただし、60年以上のキャリアを持つ吉増の受賞を踏まえると、選考基準は今回に限って調整された可能性がある。
FLAGアートファンデーションは2008年、US版ARTnewsのTop 200 Collectorsにも名を連ねる投資家、グレン・フールマンによって設立された。賞設立の意図について彼は、「ニューヨークとロンドンの交流を生み出すとともに、世界中のあらゆる場所、あらゆる世代のアーティストに比類ない機会を提供すること」と説明している。
さらに、「現在87歳の吉増は、この賞の精神と可能性を体現する存在です。FLAGとサーペンタイン双方の観客が、吉増の実践の幅と豊かさに触れる機会を得られることを心から楽しみにしています」とコメントした。

60年にわたる「詩とアート」の越境的実践
1939年生まれの吉増は、詩人として活動を開始。1964年には美術雑誌「三彩」編集部に入り、戦後前衛芸術の影響を受けながら詩作を展開し、頭角を現した。以来60年以上にわたり、パフォーマンス、写真、音声、映像など多様な表現形式を詩と横断的に結びつけながら、独自の実践を発展させてきた。
海外での主な展示としては、シャルジャ・アートファンデーションで開催された「Sharjapan: The Poetics of Space」(2018)、マンチェスター・インターナショナル・フェスティバルの一環としてファクトリー・インターナショナルで開催された「Poet Slash Artist」(2021)などがある。また、サンパウロ・ビエナーレ(1991、2026)や上海ビエンナーレ(2026)にも参加している。
国内では、東京国立近代美術館での「声ノマ 全身詩人、吉増剛造展」(2016)、足利市立美術館での「涯テノ詩聲 詩人吉増剛造展」(2017)、前橋文学館での「フットノート――吉増剛造による吉増剛造による吉増剛造」(2023)などの大規模個展を開催。2024年には東京・SIGNALで「吉増剛造展『ネノネ』」を行った。
吉増は受賞に際し、声明で次のように語っている。
「私の仕事はいつも、詩、イメージ、音のあいだを行き来してきました。それをこのように認めてもらえたことは、とても意味深いことです。私は自分の活動を固定されたものだと思ったことはありません。場所、人、時間によって形を変えながら、進化し続けるものです。この賞は、そうした探求を続けていくことへの励ましのように感じています」
「進化し続け、模索するアーティストの象徴」
初回受賞者は、サーペンタインの芸術監督ハンス・ウルリッヒ・オブリスト、FLAGアートファンデーションのディレクターであるジョナサン・ライダー、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のチーフ・キュレーター・アット・ラージのミシェル・クオ、ジャカルタのミュージアムMACANディレクターのヴィーナス・ラウ、そしてアーティストのリクリット・ティラヴァニによる審査員団によって、15人の候補者の中から選出された。
ライダーは吉増について、こう述べている。
「吉増は、日本を代表する詩人のひとりとして高い評価を受けてきました。しかし、その『ヴィジュアル・ポエム』とも呼ぶべき作品群は、ニューヨークやロンドンの観客に包括的な形で紹介されたことがまだありません。言語を用いながら、その複雑性に挑み続ける吉増の姿勢は、長いキャリアを経た今なお好奇心とともに進化し続け、新たなコミュニケーションの形を模索するアーティストの象徴です」
また、サーペンタインのCEOであるベッティナ・コレクとオブリストも連名で次のように語った。
「吉増は、日本でもっともラディカルな存命詩人のひとりです。言語、音、視覚芸術の境界を解体する実践を60年以上にわたり続け、87歳の現在もなお、新たな領域へ歩みを進めています。今回のパートナーシップは、アーティストをグローバルな観客と結びつけ、大西洋を越えた対話を育むという、サーペンタインとFLAGアートファンデーションに共通する使命をさらに深めるものです」
副賞となる吉増の個展は、2027年秋にロンドンのサーペンタイン・ギャラリー「ノース・スペース」で開幕し、その後2028年春にニューヨーク・チェルシーのFLAGアートファンデーションへ巡回する。いずれも、吉増にとってヨーロッパおよびアメリカで初となる大規模個展となる。(翻訳:編集部)
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