フリーズ・ニューヨークが開幕──初日で高額成約が続出も、「慎重な買い」が主流
複数の高額作品が初日に成約し、売上の回復を印象づけたフリーズ・ニューヨーク。それでも現場にあったのは、かつての投機的な競争ではなく、熟慮された購買行動だった。市場は活況を取り戻しつつも、その質は明確に変化している。
5月13日(現地時間)に開幕したフリーズ・ニューヨークのプレビュー初日、会場は熱気に包まれた。マンハッタン西側にある会場、ザ・シェッド(The Shed)に集まった来場者の多くは、5月9日に一般公開が始まったヴェネチア・ビエンナーレから戻ってきたばかりで、各国パビリオンの出来や、最も激しい抗議活動についての情報交換が続いていた。
プレセールス好調、ビエンナーレ帰りの熱気が会場へ
しかし、この日の主役はあくまでアートの売買だった。出展する約65の国際ギャラリーの一部では、午前11時のVIP開場を迎える前からすでに販売が動き出していた。ニューヨークのカナダ・ギャラリーのティフ・シグフリッズはUS版ARTnewsに対し、フェアに先立つ1週間のプレセールスが好調だったと語る。午前10時の朝食イベントでコーヒーとペストリーを手にしたアドバイザーのロウウェル・ペティットは、303ギャラリーが出品しているスティーブン・ショアの写真作品をすでに仲介したと明かし、さらに、ジェームズ・コーハン・ギャラリーがケリー・シンナパ・メアリー(Kelly Sinnapah Mary)の絵画をほぼ完売させたという情報も耳にしていた(そしてそれは事実だった)。

「少し前までは、アート市場の状況に対する不安があったのは当然です」とペティットは語る。しかし、フリーズ、TEFAF、インディペンデント、NADA、エスターといった主要フェアが一斉に開幕する今週は、とくに「驚くべき需要の高さ」を感じているという。
この日の後半、ニューヨークのディーラー、アンドリュー・クレップスは、「かなり売れています。エネルギーもいい感じ」と語った。
高額作品が相次ぎ成約、市場回復の手応え
ここ2年の不安定な状況を経て、アート市場の空気は変わりつつあるようだ。フリーズ・アメリカズのディレクター、クリスティーン・メッシネオはフェア前のビデオインタビューで、フリーズ・ロサンゼルスやフリーズ傘下に入ったエキスポ・シカゴの成功を指摘した。また2025年には、サザビーズとクリスティーズがともに売上増を記録し、委託者たちも自信を取り戻しつつある。今週から来週にかけての主要セールでは、推定1億ドル級の作品が少なくとも3点出品される予定だ。
ペティットが言及した需要は、会場全体で顕著に表れていた。午後4時までに、世界的ギャラリーのホワイトキューブは、エル・アナツイの彫刻《LuwVor I》《MivEvi III》(ともに2025)をそれぞれ220万ドル(最近の為替レートで約3億5000万円、以下同)と190万ドル(約3億円)で販売。さらにアントニー・ゴームリーの彫刻《SET VII》(2024)を45万ポンド(約1億円)、ハワードナ・ピンデル(Howardena Pindell)のミクストメディア作品《Deep Space #4》(2025)を27万5000ドル(約4300万円)で売却したほか、ジュリー・カーティス(Julie Curtiss)、サラ・フローレス(Sara Flores)、ルイーズ・ジョヴァネッリ(Louise Giovanelli)、マルグリット・ユモー(Marguerite Humeau)らの作品も販売した。
セレブとメガコレクターが集結
会場には著名人の姿も多く見られた。ニュースキャスターのアンダーソン・クーパーや、豊かなひげを蓄えたREMのフロントマンであるマイケル・スタイプ(ある来場者は「少しデヴィッド・レターマンに似ている」と冗談めかしていた)に加え、コレクターのベス・ルーディン・デウッディやマイアミのルーベル家も来場。午後には黒いキャップとマスク姿のレオナルド・ディカプリオもアドバイザーのラルフ・デルーカとともに目撃され、俳優のシャロン・ストーンも姿を見せた。

「Icy Gays」として知られるコレクターのロブ&エリック・トーマス=スウォールは、ノースダコタからバージニアに移住したばかりで、コレクションを再開したところだという。ソウルのGギャラリーで展示されていた韓国系アメリカ人アーティスト、レイチェル・ユン(Rachel Youn)のマッサージ機と花を組み合わせた官能的なキネティック彫刻(6500〜8000ドル、約100万〜130万円)を鑑賞しながら、「彼女は私たちにとって新たな発見です」と語り、1点を取り置きしたことを明かした。「すべてが再び動き出している感じがする」と、楽観的な雰囲気を指摘する。
Gギャラリーのジェーン・リーも「売れています」と語り、「若いアーティストによるキネティック作品としては驚くほど関心が高い」と付け加えた。
美術館などの機関も購入に動いている。シャーマン・ファミリー財団の買収基金が初めて設けられた今年、ブルックリン美術館はニューヨークのウルリク・ギャラリーから、2021年に亡くなったベッティーナ(Bettina)の作品2点を取得。ボルチモア美術館はパブリック・ギャラリーから竹林玲香(Reika Takebayashi)、W-ガレリアからセバ・カルフケオ(Seba Calfuqueo)、ソフト・オープニングからジョアン・バーク(Joanne Burke)の作品を購入し、各作家に5000ドルの賞金が授与された。
女性作家から戦後巨匠まで、ブルーチップ市場の厚み
スイスのメガギャラリー、ハウザー&ワースは女性作家に焦点を当てた展示を展開。ローナ・シンプソン(Lorna Simpson)やルイーズ・ブルジョワといった重鎮に加え、シンディ・シャーマンの新作写真を紹介した。各6点エディションで、価格は17万5000〜19万5000ドル(約2800万〜3100万円)。
同ギャラリーのシニア・ディレクター、クリストファー・カニザレスは、シャーマン作品について、雑誌『The Face』からの最近のコミッションを端緒に、アーティストが数十年にわたるキャリアで確立してきたキャラクター像や人物像を再訪したものだと説明。「彼女自身のキャラクター創造の歴史を掘り起こしたものだ」と語った。
一方、午後1時の時点ではギャラリー代表のマルク・パヨが、売上について結論を出すにはまだ時期尚早としながらも、「来場するコレクター、キュレーター、美術館ディレクターの水準は、過去と同等か、それ以上だ」と語った。

タデウス・ロパックでは、戦後の大物作家から新作まで幅広い売上があった。ゲオルク・バゼリッツ《Stunde der Nachtigall》(2012)が140万ユーロ(約2億6000万円)、ロバート・ラウシェンバーグ《Bog Song (Salvage)》(1984)が82万5000ドル(約1億3000万円)、アレックス・カッツの新作花卉絵画《Black Roses 3》(2025)が60万ドル(約9500万円)で売却された。さらに、マルタ・ユングヴィルト(Martha Jungwirth)の作品2点もそれぞれ32万ユーロ(約5900万円)と7万5000ユーロ(約1400万円)で売却されたほか、ジョアン・スナイダー(Joan Snyder)の《Buds & Blossoms》(2025)も15万ドル(約2400万円)で販売された。

ヴィクトリア・ミロの緊密なキュレーション
ロンドン拠点のヴィクトリア・ミロは、ペア、あるいは「カップル」として提示された具象絵画のみで構成された、緊密にキュレーションされたブースを展開していた。このプレゼンテーションでは、アリ・バニサドル(Ali Banisadr)、マリア・ベリオ、(サスキア・コルウェル)Saskia Colwell、ポーラ・レゴ(Paula Rego)、エミル・サンズ(Emil Sands)らの作品が一堂に会し、形式的にも感情的にも互いに呼応し合い、作用し合う構成となっていた。また、ブース左手の一角では、アリス・ニール(Alice Neel)の絵画と、その熱心な支持者でもあるシャンタル・ジョフィ(Chantal Joffe)の作品が並置されていた。両者の作品はいずれもカップルを主題としており、さらに2人の作家自身もまた一種の「カップル」として捉えうることから、この組み合わせが生み出す対話は、本フェアにおけるハイライトのひとつとなっていた。

他の組み合わせはより繊細で、遊び心があり、ときにエロティックですらあった。サスキア・コルウェル(Saskia Colwell)のある作品では、重なり合う手足と影が女性のマスターベーションを思わせる錯覚を生み出しているが、実際には絡み合う身体を描いたものであり、ストッキングを履いた女性の膝の上に、もう一方の脚が優雅に掛けられている構図となっている。
「相性よく機能する要素がいくつかあることに気づいたのです」と、ギャラリーのプレジデントであるグレン・スコット・ライトは語る。また彼は、このブースを従来型のフェア展示というよりも、現代具象絵画と作家間の視覚的対話に焦点を当てた、緊密に構成されたグループ展として捉えていると付け加えた。
同ギャラリーは価格を公表しない方針だが、ブースに詳しい関係者によれば、午後遅くまでに複数の作品が3万ドルから30万ドルの範囲で売却されたという。
価格を公表しないことで知られるガゴシアンは、デリック・アダムス、リチャード・ディーベンコーン(Richard Diebenkorn)、ヘレン・フランケンサーラー(Helen Frankenthaler)、サイ・ギャヴィン(Cy Gavin)、リック・ロウ(Rick Lowe)、タイラー・ミッチェル、サビーネ・モリッツ(Sabine Moritz)、ゲルハルト・リヒター(Gerhard Richter)、アドリアナ・ヴァレジャオン(Adriana Varejão)、スタンリー・ホイットニー(Stanley Whitney)、フランチェスカ・ウッドマン(Francesca Woodman)の作品を販売したと発表した。関係者によれば、この日の終盤にはサラ・ジー(Sarah Sze)の大型作品が取り置き状態となっていたという。
今年、ペースは、マヤ・リン(Maya Lin)とレオ・ヴィラレアル(Leo Villareal)の2名の作家に絞って出展した。両者はいずれも今年、アメリカで新たなパブリックアートのコミッション作品を発表予定である。ヴィラレアルの彫刻は「Golden Game」シリーズの作品で、新たなサイズで制作されたもの。一方、リンは《Silver Yellowstone》(2026)と題された新作の銀製彫刻を発表した。価格帯は10万ドルから20万ドル(約1600万〜3200万円)で、情報筋によれば、これらの作品の大半はVIP初日の終了までに売却されたという。
若手ギャラリーと制度の連動──“発見”から評価へ
安定した来場者数を集めていた若手ギャラリーのひとつが、チャプターNYとカルロス/イシカワによる共同ブースだった。両者は2017年のインディペンデントでブースを共有し、2021年以降はフリーズでパートナー関係にある。
チャプターNYのプレゼンテーションでは、エリン・ジェーン・ネルソン(Erin Jane Nelson)、アントニア・クオ(Antonia Kuo)、アリックス・ヴェルネ(Alix Vernet)、メアリー・スティーブンソン(Mary Stephenson)による新作および近作が一堂に会し、今月ニューヨーク全体で高まっている制度的動きと密接に連動する構成となっていた。
ネルソンは現在ホイットニー・ビエンナーレに出品中であり、一方のスティーブンソンは同ギャラリーでの個展が最近完売したばかりだ。
展示は、クオの層をなすフォトケミカル作品や、ヴェルネの断片化された都市的彫刻から、ネルソンの陶製カメラ、スティーブンソンの心理的緊張を帯びた室内画まで、幅広い内容となっていた。チャプターNYのニコール・ルッソは、同ギャラリーがこのフェアに戦略的に臨んでおり、売上だけでなく、「持続性」や、すでに美術館などの機関から注目を集めつつある作家たちの勢いを高めることも念頭に置いていると語った。価格は3500ドルから3万ドル(約55万〜500万円)で、同ギャラリーによれば、午後早い時間までに7点が売却されたという。ルッソはこう話す。
「2021年とは違います。その場ですぐ買わなければならないと感じている人はいません」
それでも彼女によれば、コレクターたちはブースを離れたあとに再び戻ってきていた。購入のペースがより慎重になったとしても、買い手の関心はなお持続していることを示す動きだ。
午前から午後の早い時間帯にかけての動きは、数年前と比べても、より落ち着き、熟慮されたものとなっていた。かつては投機的な熱狂が市場を支配し、コレクターたちがいち早くブースにたどり着こうと互いに競い合っていたのとは対照的だ。
「すぐには買わない」──変化するコレクターの行動様式
「いまは時間をかけて見る余裕があります」と、アドバイザーのメレディス・ダロウはUS版ARTnewsに語った。彼女はアスペン美術館に関わる複数のコレクターのコレクション形成に携わり、高い評価を築いてきた人物だ。
ダロウによれば、今シーズンも前シーズンも、市場には積極的な買い手が存在しているが、その動きは「以前よりもずっと通常に近く、過度に慌ただしくないペース」になっているという。
また彼女は、フェア全体にわたって質の高い作品が揃っている点にも言及した。アルミン・レッシュで展示されているジェームズ・タレルのようなブルーチップ作家から、ヘイリー・バーカー(Haley Barker)のような若手作家まで、その幅は広い。ナイト・ギャラリーでのバーカーの個展は、すでに初期の話題のひとつとなっている。
「市場の上位から下位に至るまで、これほど質の高い作品が揃っていることは重要です」と彼女は述べた。

その日の終わりまでに、アルミン・レッシュは、90万ドルから100万ドル(約1億4000万〜1億6000万円)と評価されていたジェームズ・タレルの作品が売却されたと報告した。マネージング・パートナーのポール・ド・フロマンは、初日に複数の早期成約があったことを含め、「例外的な反応」があったと述べている。
一方、ナイト・ギャラリーによるヘイリー・バーカーの個展形式のブースは、今回のフェアにおける初期のブレイクアウトのひとつとなった。南西部の風景を描いた大気的な作品群は、2万4000ドルから17万5000ドル(約380万〜2800万円)の価格帯で、正午までに完売した。
このブースは、バーカーが最近行ったニューメキシコの旅——ジョージア・オキーフにゆかりの地を含む——から着想を得ており、シェッドの一角を、陽光に照らされる樹木やポーチ、山の景色が、霞がかった官能的な絵具の層によって描き出された、まるで砂漠のリトリートのような空間へと変貌させていた。
「正午までにはすべて売れていました」と、ギャラリー創設者のダヴィダ・ネメロフは語る。バーカーの作品は制作に時間を要するため、フェア前から需要が着実に積み上がっていたことも背景にあるという。

午後に入っても、追加の売上は引き続き報告されていた。ティナ・キム・ギャラリーでは、幅広い価格帯で作品が成約しており、その中心となったのは、河鍾賢(Ha Chong-Hyun)の絵画(18万ドル、約2800万円)と、キム・チャンヨル(Kim Tschang-Yeul)の絵画(12万ドルから14万ドル、約1900万〜2200万円)。その他にも、マイア・ルース・リー(Maia Ruth Lee)、イ・シンジャ(Lee ShinJa)、スキ・ソッキョン・カン(Suki Seokyeong Kang)、ダヴィデ・バリアーノ(Davide Balliano)、ピオ・アバド(Pio Abad)、ジェーン・ヤン・ダエネ(Jane Yang D’Haene)、リヴィエン・イン(Livien Yin)の作品が販売されており、価格帯はおおよそ2万ドルから8万ドル(約320万〜1300万円)に及んでいる。
売れる現場と不穏な世界情勢、その同時進行
軍事衝突や経済の混乱といった厳しい世界情勢も、来場者の意識から完全に消えていたわけではない。中東の広範な紛争地域から直接参加しているギャラリーとして、テヘランのダスタンとドバイのロウリー・シャビビの2軒が、シェッドにブースを構えている。
ニューヨークとメキシコシティを拠点とするクリマンツットのホセ・クリは、フェアは非常に順調に進んでいると報告し、レオノール・アントゥネス(Leonor Antunes)、ナイリー・バグラミアン(Nairy Baghramian)、ガブリエル・クリ(Gabriel Kuri)、ヤン・ヘギュ(Haegue Yang)らによる作品を出品していると述べた。「ワンシュイ(Wangshui)の作品はすべて成約できたことを大変うれしく思っています」と彼は語る。
その近くには、ジョン・ジョルノ(John Giorno)の《Dial-a-Poem》に接続された旧式の電話が設置されており、来場者はさまざまな詩人の朗読を聴くことができる。「これは複数の機関によって取り置きされています」と彼は言う。この作品は、ジョルノの故郷ニューヨークにおいて特に響くものと言える。現在はアートスペースとしてアンソニー・ヒューバーマンが運営するジョルノの旧居「GPS」において、作家とそのレガシーへの関心が丁寧に継承されていることも、その背景にあるだろう。
一方で、より厳しい側面もある。クリによれば、ドクター・ラクラ(Dr Lakra)として知られるアーティスト、ヘロニモ・ロペス(Jerónimo López)も本来はフェアに参加する予定だったが、ビザが下りなかったという。
「日常的なムードは、まるで終末のようです」と、303ギャラリーの創設者であるリサ・スペルマンは語る。同ギャラリーは、ダグ・エイケン、サム・フォールズ(Sam Falls)、メアリー・ハイルマン(Mary Heilmann)、アリツィア・クヴァーデ(Alicja Kwade)、スー・ウィリアムズ(Sue Williams)らの作品を9万ドルから35万ドル(約1400万〜5500万円)で出品している。
「それでもフェアに来ると、そこは祝祭のようになる」と彼女は続ける。「この両者を折り合わせるのは難しい。でも、それでも私はこの状況を受け入れます」
(翻訳:編集部)
from ARTnews