「ロシアは略奪文化財を闇市場で売り捌いている」──ウクライナ文化相が被害は170万点以上と非難

ロシアウクライナから略奪し、闇市場で売られている文化財への対応が、先週ワルシャワで行われたEU各国の文化担当大臣による非公式会合で話し合われた。ロシアに略奪された文化財は170万点以上にのぼるという。

所蔵品のほとんどが略奪されたヘルソン美術館の収蔵庫。奪われた作品は、現在ロシアの複数の美術館に散らばっている(2024年2月19日撮影)。Photo: Wojciech Grzedzinski/Anadolu via Getty Images

ウクライナのミコラ・トチツキー文化・戦略コミュニケーション相によると、ロシアの軍事侵攻開始以来、170万点以上のウクライナの文化財が略奪されたという。同大臣は、国営報道機関のウクルインフォルムのインタビューに応じ、4月7日と8日にワルシャワで開かれたEU各国の文化相との非公式会合で、ロシアによる文化財の略奪と闇市場での売買について話し合った内容を語った。同会合には、EU非加盟のイギリス、ノルウェー、アイスランドも参加している。

トチツキー大臣は、ウクライナの芸術文化への脅威に対する欧州各国の支援に感謝しつつ、侵攻から3年以上が経った今、文化財の不正取引をなくすためにはさらなる努力が必要だとしてこう強調する。

「ウクライナ国民は誰もが、ロシアが領土を狙い、平和的に暮らす人々を殺害しているだけではないことを知っています。ロシアは一貫して、意図的にウクライナの文化遺産を破壊し、一時的に占領された場所では考古学的遺物から美術館の所蔵品まで170万点もの文化財が強奪されました。ロシアは国際法のありとあらゆる規範に違反して、自らの利益のためにこれらを奪ったのです」

4月15日現在ユネスコは、ウクライナ全土で149の宗教施設、33の博物館、2つの遺跡を含む485の文化財が被害に遭ったことを確認。「1200以上の文化遺産や文化インフラの被害に関する信頼できる記録」があるとしている。この損害についてウクライナは、同国の文化遺産をロシアが意図的に狙った行為であり、1954年のハーグ条約(武力紛争の際の文化財の保護に関する条約)に違反すると厳しく批判している。

ウクライナはこのところ欧州の同盟国との政治的結びつきを強めているが、その背景には、アメリカの対ロシア姿勢の変化がある。トランプ大統領はロシアとウクライナの和平交渉を急ピッチで進めようとし、2月にサウジアラビアで米ロの高官による初の会合が行われたが、その際ウクライナの高官や欧州諸国の首脳は除外された。一方のロシアは同月、ウクライナ侵攻が3年目を迎える前夜に過去最大規模のドローン攻撃をウクライナ各地で繰り広げている。

アメリカが時にウクライナの頭越しに和平交渉を進めようとしていることが、ウクライナから持ち去られ、行方不明になっている美術品にどう影響するのか、そして返却の見込みがあるのかについては不透明だ。一方ウクライナ当局は、略奪された美術品がロシア領内の美術館に展示されていることを非難している。たとえば2024年4月にヘルソン美術館は、クリミアのタヴリダ中央博物館で撮影された「プロパガンダ動画」の中で、ロシア軍に略奪された100点の作品を確認したと発表。この動画は、2023年9月にロシアのテレビ局で放映されたとも伝えられた。これら略奪文化財の現状についてトチツキー大臣は次のように述べている。

「各国の協力のおかげで、我われは文化財を少しずつ取り戻しつつあります。具体例として、ロシアが闇市場で売るために海外に持ち出した美術品を各国当局が押収し、ウクライナの高官や私自身の外国訪問の際、返還してくれたことが何度かあります」(翻訳:石井佳子)

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