菊地成孔が「常設展」に捧げるプレイリスト【Vol. 4】:印刷博物館──マーブルマシンが導く「音と文字」
音楽家・文筆家の菊地成孔が、美術館の「常設展」鑑賞にふさわしいプレイリストを作成する連載第4回。舞台は、TOPPAN本社内にある印刷博物館だ。コンテンポラリー、エレクトロニカと共に印刷の歴史を楽しもう。

はじめに:連載のトリセツ
この連載は「ミュージアムの常設展を鑑賞する、その際に筆者がセレクトした音楽をプレイリストにする」というもので、閲覧者の皆様に於いては、プレイリストの使用方法は無限に近くあるであろう。
一番ストレイトかつドラスティックなものは、実際にその施設まで足を運び、イヤーフォンもしくはヘッドフォンを装着し(どれほど優れた常設展を有していようと、イヤーフォン/ヘッドフォンの装着鑑賞が禁じられている美術館は連載のリストからは除外される)、プレイリストを聴きながら、その常設展を鑑賞する。というものになろうが、現在、本邦の美術館の大半は、公式ウェブサイトに展示作品の写真と解説が掲載されているので、自室に於いて擬似的な経験も出来る。
また、プレイリストは独立して聴くことも出来る。特に「現場」まで赴いて追体験を実行された方による、あらゆる御感想は歓迎し、連載に反映させて頂く次第である。
印刷博物館のためのプレイリスト
4回目は「印刷博物館」である。今回も前回同様の曲球で、独立した博物館ではなく、世界最大規模の総合印刷会社であり、「国内印刷業界2強(何せ、日経平均株価の構成銘柄の1つである)」と称される、旧「凸版印刷株式会社(とっぱんいんさつ、英名TOPPAN INC)」、現「TOPPANホールディングス株式会社(トッパンホールディングス、英名TOPPAN Holdings Inc.)」の文京区小石川ビル本社内に存在する、本邦の印刷文化に特化した歴史博物館である。
筆者はこうした「大会社内にある、社史や、扱う商品、属する業界等々に関する歴史博物館」にノスタルジーと愛着があり、それは故郷(千葉県銚子市)の最大製造業が醤油の製造販売で、市内にある醤油会社本社ビル内に設えられた小博物館があり、土地の小学生は皆、課外授業として、ここで醤油の歴史に関する展示や、「醤油の歴史」という16mmフィルムによる短編記録映画を見せられた。という経験に由来するものだが、こうした中小規模だが新しく(西暦2000年に本社100周年記念事業の一環で設立)、専門分野に特化された意欲的な博物館に対して、年甲斐もない対抗的な高揚が抑えきれなかった。
果たして「印刷博物館」は1フロアで延床面積が4150平方メートルという小規模(例えば東京国立近代美術館の延床面積は1万4439平方メートル)ながら、館内建築から展示物の展示技術まで、最新のテクノロジーを駆使した、ある意味でノスタルジーと全く無縁の施設であり、筆者と同様の「昭和の遺物である地方にある小博物館」という、最高でお化け屋敷ほどの逸物まであり得る文化経験を浄化、刷新するエネルギーに満ちた歴史博物館であった。現在の館長は(筆者と同年齢である、小説家の)京極夏彦氏であり、充実の公式HP内の「館長からの挨拶」や「本館の理念~『印刷文化学』を目指してまで、かなりリアルな追体験が可能である。
プレイリスト1曲目は、館内に足を踏み入れた瞬間の高揚にペアリングされたもので、スウェーデンのフォークトロニカ・バンド「ウィンターガタン」の巨大なハンドメイド・マシン「マーブルマシン」の実演である。その威容は「音と文字」という、根源的な相違と相同性を持つ2つのメディアの結節点を戯画化したものであり、本館内全体のテーマ曲と解釈して頂きたい。2曲目のバルトーク『ルーマニア民俗舞曲』から、本邦の「印刷の歴史」が、古代から始まり、目眩くスピードで、それは現在から未来まで続く。
印刷博物館PLAYLIST
全体のテーマ曲
1.Wintergatan - Marble Machine (music instrument using 2000 marbles) 4:32
展示
2.Béla Bartók - Romanian Folk Dances, Sz. 68 6:19
3.Vivre pour Vivre :Francis Lai / パリのめぐり逢い :フランシス・レイ 3:06
4.Francis Lai & Liliane Davis - Ballade pour ma mémoire 3:45
5.Debussy: L'isle joyeuse, CD 109 5:41
6.Anton Webern, Five movements for string quartet, op. 55:41
7.Malambo (Estancia Suite) 5:32
8.Horacio Vaggione - Consort for Convolved Violins 7:12
9.Russ Gabriel - Mutations 6:51
10.Acid house from 1958 ... Tom dissevelt & Kid Baltan ( Dick Raaijmakers ) syncopation 3:04
11.Classique: Bidule et un 1:54
12.Degung Sundanese Music of West Java 59:37
13.John Lee Hooker - Canal Street Blues (Official Audio) 2:54
印刷博物館
住所:東京都文京区水道1-3-3 TOPPAN小石川本社ビル
時間:10:00~18:00(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合開館)、年末年始、展示入れ替え期間
料金:一般500円、大学生200円、高校生100円、中学生以下・70歳以上無料 ※企画展開催時は、入場料変更







