SANAAの約538億円美術館計画が白紙に。ハンガリー新政権が建設中止を決定

ハンガリー新政権は、SANAAが設計した総工費約538億円の新国立美術館の建設中止を決めた。国立コレクションの移転先は白紙となり、現在の美術館が入るブダ城の全面改修や、別の場所での新館建設が検討されている。

ブダペストの新国立美術館完成予想図。Photo: Liget Budapest 2019

ハンガリーの新政権が、首都ブダペストの文化的地位向上を目的にヴァーロシュリゲット(市民公園)で進められてきた再開発事業の一環である、新国立美術館の建設計画を中止した。アートニュースペーパーが伝えた。

「リゲット・ブダペスト」と呼ばれるこの再開発事業は、ヴァーロシュリゲットとその周辺で10年以上にわたって進められてきた。これまでに「ハンガリー音楽の家」や民族学博物館の新館といった大規模な文化施設が建設されたほか、近隣のブダペスト国立西洋美術館も大規模な改修を終えている。

プロジェクトの中核施設に位置づけられていたのが、建築家ユニットSANAA(妹島和世+西沢立衛)が設計する新国立美術館だ。

現在、ハンガリー美術は主にブダ城内のハンガリー国立美術館、海外美術は主に英雄広場にあるブダペスト国立西洋美術館で展示されている。延べ床面積約5万平方メートルの新国立美術館では、両館が所蔵する19世紀以降のハンガリー美術と海外美術を一体的に紹介する計画だった。

しかし、ブダペスト市長や環境保護団体などの反対を受け、建設計画は2019年以降、事実上停滞していた。さらに、5月に発足したペーテル・マジャル首相率いる新政権が6月18日に公布した政令により、リゲット・プロジェクトにおける全ての建設工事の終了が正式に決まった。

SANAAが設計した新館の建設費は約1000億フォリント(約538億円)と見積もられ、ヴィクトル・オルバーン前政権は国費でまかなう方針を示していた。

新たに交通・公共事業相に就任したダーヴィド・ヴィテージは、アートニュースペーパーの取材に対し、新国立美術館が「市民公園に建設されることはない」と明言した。未利用の建設予定地は、公共の公園として再整備されるという。

ハンガリー国立美術館の広報担当者は、今後の計画についてコメントを控えた。一方、同館とブダペスト国立西洋美術館の館長を兼任するラースロー・バーンは、ハンガリーのニュースサイトHVGに対し、SANAAによる「世界水準の現代建築」が別の場所で実現する可能性に、今も期待を寄せていると語った。

別の場所での建設が実現しなければ、ハンガリー国立美術館が入るブダ城の旧王宮を全面的に改修するのが最善だとバーンは主張している。ただし、大規模改修には8年から10年を要し、巨額の資金も必要になるとみられる。歴史的建造物である旧王宮は、美術館を長期的に運営し、作品を安全に保存するうえで設備上の制約を抱えており、これが新館建設が計画された理由の1つでもあった。

国立美術館の今後は、新政権が直面する文化政策上の大きな課題の1つだ。一方、美術関係者の間では、新政権がすでに文化芸術分野との対話を始めていることを評価する声も上がっている。

政府関係者との協議に参加した国際美術評論家連盟(AICA)ハンガリー支部の代表、タマーシュ・ドンは、「国立美術館の将来をめぐり、専門家による公開の議論を継続的に行うことが重要です」と述べ、次のように続けた。

「未解決の問題は数多くあります。なぜ国立美術館はブダ城から移転しなければならないのでしょうか。現在の建物が抱える制約や老朽化が理由だとしても、移転だけが本当に唯一の解決策なのでしょうか」

複雑な問題が残るなか、ブダペストのギャラリスト、エリカ・デアークも、新政権が今後も文化芸術分野との前向きな対話を続けるというドンの見方に同意し、次のように語った。

「新たなハンガリーを形づくるうえで、文化が果たす役割を新政権は理解していると思います」

デアークは、リゲット・プロジェクトをアムステルダムのミュージアム広場のような文化地区へと発展させる構想を支持していた。しかし現在は、「ハンガリーには、このような巨大建設事業を完成させられるだけの財政的、心理的な余裕がありません」と認めている。

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