イギリスの美術市場は30年でどう変化したのか? 最新レポートが示す成長と停滞
世界第2位の規模を誇るイギリスの美術市場は、過去30年間でどのような変化を遂げたのか。業界団体BAMFの最新レポートは、金融危機後の市場の回復状況に加え、ギャラリーやオークション市場の現状、国際的な競争力などを明らかにしている。
ブリティッシュ・アート・マーケット・フェデレーション(BAMF)は、過去30年間におけるイギリスの美術市場の動向を分析した市場レポート「The British Art Market 1996–2025」を発表した。同報告書では、市場規模の推移や経済効果を検証するとともに、主要な競争相手であるアメリカや中国との比較を行っている。このレポートは、アート・バーゼルとUBSが手がけるマーケットレポートなども担当する、Arts Economicsによって執筆された。
イギリス美術市場の成長と課題
報告書によれば、イギリスの美術市場は取引額において世界第2位の市場規模を依然として誇っている。売上高は1996年の26億ポンド(現在の為替レートで約5465億円、以下同)から、2025年には80億ポンド(1兆6811億円)へと成長を遂げた。ただし、この増加には物価上昇の影響も含まれており、実質的な成長幅は数字ほど大きくない。
過去30年間でイギリスの美術市場が最大規模に達したのは2008年で、売上高は112億ポンド(約2兆3541億円)を記録した。しかし、世界金融危機の影響で市場は急激に縮小し、翌2009年には57億ポンド(約1兆2000億円)とほぼ半減した。
一方、金融危機後の市場の回復が鈍いことは、懸念点の一つとして挙げられる。2009年以降、イギリスの美術市場の売上高は約40%増加したものの、2025年時点でも金融危機前の水準には回復していない。BAMFのプレジデント、アンソニー・ブラウンは報告書のなかで、同連盟に所属する多くの小規模事業者が、過剰で増え続ける規制によって事業活動が圧迫されていると訴えていることを指摘した。なお、報告書で2020年のイギリスのEU離脱(ブレグジット)に言及しているのは、報告手続きの変更に伴う2021年以降のEUからの輸入増加について説明した箇所だけだ。
2025年のイギリスの美術市場は、ヨーロッパ全体の約半分を占め、他国を大きく引き離して域内最大の市場となった。また、世界全体の取引額に占める割合は18%で、フランスの8%や中国の14%を上回ったものの、44%を占めるアメリカには大きく差をつけられている。
2025年の美術品輸入額は2015年と比較して45%減少したが、2000年と比べると35%増えている。一方、輸出額は2000年比で46%増加したものの、2025年は前年比15%減となった。この輸出額の減少について報告書は、ドナルド・トランプ大統領が関税をめぐる方針をたびたび変更したことによる「間接的な影響や先行きの不透明感」が背景にあった可能性を指摘している。実際、輸出額の減少の大部分は、対米輸出が落ち込んだことによるものだった。しかし、長期的に見ると、イギリスの美術品取引におけるアメリカへの依存度は低下している。2000年以降、輸出額全体に占める対米輸出の割合は半減し、輸入額全体に占めるアメリカからの輸入の割合もほぼ同程度減少した。
ギャラリー経営の実態
報告書によると、2025年時点でイギリスには約7610の美術商やギャラリーがあり、その約3分の1がロンドンに集中している。売上高は推計46億ポンド(約9668億円)に上り、事業者数は2003年から約3分の1増加した。その大半は「小規模または零細事業者」で、2025年の売上高が100万ポンド(約2億1020万円)以下の事業者が全体の89%を占めている。
アートフェアはギャラリー経営において重要な役割を果たしており、2025年には美術商の売上高全体の37%を占めた。一方、イギリス国内で開催されたアートフェアは2019年の52件から2025年には40件強に減少している。また、ギャラリーはアートフェアへの参加に多額の費用を投じており、2025年の支出総額は約3億1500万ポンド(約661億円)に上った。
ギャラリーの売上高は、一部の作家に集中する傾向がある。2025年には、最も売上の多い作家1人が平均38%、上位3人では59%を占めた。こうした傾向は年々強まっており、上位3人の割合は2022年の48%から59%へと上昇した。ただし、これはイギリスに限った現象ではなく、世界全体でも上位3人の作家が占める割合は51%から58%に増えている。
オークション市場の取引動向
美術品や骨董品、その他の収集品を扱うオークションハウスも、イギリスの美術市場で大きな存在感を示す。国内にある約3500の競売業者・オークション会場のうち、こうした商品を扱う1170のオークションハウスが、2025年の市場全体の取引額の42%にあたる33億ポンド(約7000億円)を売り上げた。この金額は前年比8%増となったものの、過去最高を記録した2023年と比べると20%低い水準だ。また、落札された美術品の78%は5000ドル(約80万円)未満だった一方、100万ドル以上で落札された作品は全体の1%にも満たなかった。しかし、取引額では100万ドル以上の作品が全体の55%を占め、うち100万〜1000万ドル(約1億5800万〜15億8000万円)の価格帯だけで取引額全体の45%に達した。
オークション市場で最大の割合を占めるのは、戦後から現代にかけて制作された美術作品で、取引額全体の半分弱に相当する。一方、オールドマスターの市場ではイギリスが世界をリードし、世界全体のオールドマスター作品の取引額の38%を占めた。また、イギリスの美術市場が2025年にもたらした税収は、少なく見積もっても15億ポンド(約3152億円)に上るという。(翻訳:編集部)
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