ダ・ヴィンチからルーベンス、そして次の未来へ──ルーブル美術館とヴァシュロン・コンスタンタンが提携し、芸術的タイムピースを制作

2019年以来継続している、ヴァシュロン・コンスタンタンとルーブル美術館の特別なパートナーシップ。2020年12月のオークション“Bid for the Louvre”で落札され、およそ2年の月日をかけて特注で制作されたタイムピース「レ・キャビノティエ - ピーテル・パウル・ルーベンス『アンギアーリの戦い』(La lutte pour l'étendard de la Bataille d'Anghiari )へのオマージュ」が、ついにお披露目された。

オークションから長い時間を経て完成された唯一無二のタイムピース「レ・キャビノティエ - ピーテル・パウル・ルーベンス『アンギアーリの戦い』(La lutte pour l'étendard de la Bataille d'Anghiari )へのオマージュ」。

1755年創業、世界最古のウォッチ・マニュファクチュールとして知られるヴァシュロン・コンスタンタン。そして1793年の開館以来、歴史遺産の最高傑作を収蔵し紹介してきた世界最大規模のパブリックミュージアムであるルーブル美術館。ともに18世紀のフランスで産声をあげた両者は、美に対する深い理解と敬意を持ち、それを後世に継承するという責務と情熱を共有している。

そんな二つの名門のコラボレーションの最初のきっかけは、遡ること2016年、当時、ヴェルサイユ・トリアノン宮殿国立博物館からルーヴル美術館が預かった18世紀の貴重な精密時計(1754年にフランス王ルイ15世に献呈された『天地創造』と名づけられた時計)の修復をヴァシュロン・コンスタンタンが支援したことだった。その後、両者は2019年に正式にパートナーシップを締結。それは、きわめて自然な流れであったといえる。

ルーブル美術館の正式開館は1793年だが、12世紀にルーブル宮殿として建設された建物の一部が現在も使われている。Photo: ©2013 Pyramide du Louvre, arch. I. M . Pei, Musée du Louvre, Olivier Ouadah

このパートナーシップにもとづき、コロナ禍における美術館支援の目的で202012月に開催されたオークション“Bid for the Louvre”において、ヴァシュロン・コンスタンタンは同社の特注品部門である「レ・キャビノティエ」を象徴するタイムピースを出品した。

落札者や落札金額の詳細は明らかにされていないが、それは“A masterpiece on the wrist(あなたの腕に傑作を)”と銘打った顧客向け新サービスのプロトタイプであり、他の追随を許さないほど特別で贅沢な内容。「落札した購入者自身が選んだルーヴル美術館所蔵の芸術作品を、腕時計のダイヤル(文字盤)にエナメルで再現する」というもので、完成すれば、まさに世界に一本のタイムピースとなることは間違いない。

ルーブル美術館へのプライベート訪問やメゾンの熟練時計職人たちとの打ち合わせを経て落札者が選んだ作品は、ルーベンスによる模写《アンギアーリの戦い》だった。

ルーベンス《アンギアーリの戦い》(1603)Photo: ©RMN Grand Palais Musee du Louvre, Michel Urtado

《アンギアーリの戦い》は、実に魅惑的な歴史的物語を有する作品だ。そもそもこの作品は、レオナルド・ダ・ヴィンチがフィレンツェ政庁舎の大会議室(後のヴェッキオ宮殿)のために描いた壁画だが、ダ・ヴィンチは制作からほどなく技術的な問題から完成させることを断念。その後、この壁画はジョルジョ・ヴァザーリにより改装され、もはや「伝説上の大作」となってしまった(しかし現在も、研究者たちによる「現存論」はなくなっていない)。しかしルーベンスは、この作品の下絵を模写した作者不詳の素描をどこからか手に入れ、ダ・ヴィンチが最初に描いてから約100年後の1603年に、インクやチョーク、水彩で加筆したのだ。ダ・ヴィンチからルーベンスへと引き継がれたこの名画を、ヴァシュロン・コンスタンタンの職人はいったいどんな想いで腕時計のダイヤルの上に再現したのだろうか。

ルーベンス作品の繊細さをエナメルで再現するため、ヴァシュロン・コンスタンタンのエナメル職人は、20種類もの色を重ねながら、900℃の窯で何度も焼成したという。

名画の再現に挑む職人技

「絵としての力強いタッチを保ちながら、どのレベルまで微細に描くかを見極める。インクとペンによる素描を直径3.3センチのダイヤルに再現するのは、まさに挑戦と言うほかありません」

そう語るのは、ヴァシュロン・コンスタンタンの熟練したエナメル職人だ。

ルーベンスの素描の微妙なタッチの明るさや陰影、ハーフトーンをすべてとらえるために、職人たちは、ブラウン、グレーブラウン、セピアブラウン、クリームブラウンなど20種類もの色調を用い、900℃の窯で、色の層を重ねながら何度も焼成するという途方もないプロセスを経る必要があったという。

「火を熟知していなければ、連続する20回の焼成は成功しない」。その知見こそ、ヴァシュロン・コンスタンタンの歴史が培ってきたクラフツマンシップそのものといえる。

ケースバックの開閉式の蓋には、“Cerca Trova(探せ、されば見つからん)”と刻まれている。

メゾンに受け継がれる職人技は彫金にも発揮されている。18Kピンクゴールドのオフィサータイプのケースバックには、開閉式の蓋に“Cerca Trova(探せ、されば見つからん)のクラシックなカリグラフィーが刻まれている。

蓋を開ければシースルーバックとなり、精巧な自社製キャリバーを目にすることができる。ローター(回転錘)にはルーヴル美術館の東側ファサードが、やはり精巧な彫金で描かれている。ヴァシュロン・コンスタンタンの熟練した彫金職人はこう教えてくれた。

「彫金は、高級時計製造において特別な味わいをもたらす技術なのです」

類い稀なる彫金技術で描かれた、ルーブル美術館の東側ファサード。

1本のユニークピースが芸術啓蒙の一翼を担う

2023年、ヴァシュロン・コンスタンタンはこの「レ・キャビノティエ - ピーテル・パウル・ルーベンス『アンギアーリの戦い』(La lutte pour l'étendard de la Bataille d'Anghiari )へのオマージュ」を落札した購入者と同じ体験を、特別な顧客に提供するサービスを開始するという。

A masterpiece on your wrist”と名づけられたこの新サービスは、今回発表された「レ・キャビノティエ - ピーテル・パウル・ルーベンス『アンギアーリの戦い』(La lutte pour l'étendard de la Bataille d'Anghiari)へのオマージュ」と同様に、ルーヴル美術館所蔵作品の中から購入者が選んだ作品をエナメルダイヤルで再現し、ユニークピースを受注生産するという内容。完成した腕時計に対しては、ルーブル美術館から真正証明書も発行される。

もちろん、このサービスにはルーブル美術館の学芸員によるプライベートツアーおよび、メゾンの工房のプライベートツアーも含まれる。世界最大級の美術館の舞台裏や作業場を目撃できるだけでなく、もはやアーティストと言える熟練の時計職人や工芸職人たちとの出会いも用意されているというわけだ。

しかも、この“A masterpiece on your wrist”の売り上げはすべて、ルーブル美術館の芸術啓蒙プロジェクト“Le Studio”に寄付される予定だ。

ヴァシュロン・コンスタンタンのCEOを務めるルイ・フェルラは、ルーブル美術館との取り組みに対してこんなふうに語っている。

「数世紀におよぶ歴史を持つ両者ですが、このコラボレーションは21世紀にしっかりと根差しています。それは(2019年のパートナーシップ締結以降)、芸術と高級時計の分野の知識を持つ一般の愛好家たちの間で、好意をもって迎えられていることからも明らかです」

スペック
リファレンス:2400C/000R-114C
・ジュネーブシール:取得
・キャリバー:2460 SC(ヴァシュロン・コンスタンタン自社開発・製造。22Kピンクゴールド製ローターにルーヴル美術館の東ファサードを彫金で描写)
・駆動方式:機械式自動巻き
・パワーリザーブ:約40時間
・振動数:4Hz(毎時28800回振動)
・部品数:182
・石数:27
・ケース素材:18Kピンクゴールド(オフィサータイプのケースバック。線彫りによる彫金)
・ケースサイズ:直径40mm×厚さ9.42mm
・文字盤:ミニアチュールおよびグリザイユ・エナメル
・ストラップ:アリゲーターレザー

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お問い合わせ先:ヴァシュロン・コンスタンタン

Text: Tomoshige Kase Editor: Maya Nago

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