オークション直前に強奪された約7000万円の絵画2点が、犯罪グループ幹部と警察との秘密取引で返還
2017年に盗まれた評価額49万ドル(約6800万円)の絵画2点が、犯罪グループ幹部との秘密取引で警察に返還された。戻ってきたのは、ゴットフリード・リンダウアー作のマオリ族の肖像画だ。
ゴットフリード・リンダウアーは、オーストリア帝国(現チェコ)生まれで、ニュージーランドに移住して活躍した画家。2点の肖像画は、マオリの一族、ンガタイ=ラウレ(Ngatai-Raure)の族長と女性族長を描いたものだ。
この作品は、2017年にオークランドのオークションハウス、インターナショナル・アート・センターのショーウィンドーに飾られていたところを盗まれている。事件が起きたのはオークションに出品される数日前のことで、窃盗団は盗んだ白いバンを正面ウィンドーにバックで突っ込み、2点の絵を積み込んで逃走した。
リンダウアーは、マオリの首領から市井の人々まで、数多くの肖像画を残した。この3月には、ンガティ=カフングヌ(Ngāti-Kahungunu)の族長、Harawira Te Mahikaiの肖像画がオークションに出品され、手数料込みで約615,000ドル(約8500万円)で落札されている。
ニュージーランド警察は昨年12月、盗まれた2点の肖像画が軽微な損傷を受けただけで戻ってきたと発表。ニュージーランド・ヘラルド紙によると、警察は肖像画が戻ってきた経緯を「意図的に曖昧」な表現で説明し、美術品の所有者について聞かれると「絵画を返そうとした仲介者」とのみ答えたという。
スコット・ビアード警部は当時の記者会見で、「作品が戻ってよかった。捜査に関わるからには必ず解決したいと思うものだ。これらの絵画の文化的意義と価値を考えると、希望を捨てるわけにはいかなかった。そして今、私たちの手元に戻ってきた」と語り、こう付け加えた。「誰が盗んだのか、詳細を解明するためのさらなる情報を求めている」
6月7日にニュージーランド・ヘラルド紙は、盗まれたリンダウアーの肖像画2点の返還は、2人の犯罪グループ幹部との合意によって実現したが、控訴院が下した「広範囲の箝口令(かんこうれい)」によって、その身元は恒久的に明かされることはないと報じた。また、「厳重な非公開命令」により、リンダウアーの絵画が無事に警察に返還された経緯も報告・公開されないとしている。
同紙の調査報道記者、ジャレッド・サベージは、「犯罪グループのメンバーは現在、長期の禁固刑に服しているが、その犯罪行為については箝口令に違反しない限り報道できない。2人の幹部は絵画の窃盗に直接関与していたとは考えられず、むしろその地位を利用して、警察が欲しがっていたものを手に入れることができたのだろう」とリポートしている。
2点の肖像画が警察に戻ったときには指紋とDNAの鑑定が行われた。しかし、起訴は行われていない。(翻訳:石井佳子)
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