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世界最古のモーセ「十戒」石板がオークションへ。ユダヤ教の美術品人気で3億円超えの予想

モーセが神から授けられたとされる「十戒」を刻んだ世界最古の石板を、サザビーズが12月の単一ロットオークションに出品する。1913年に発見されてから30年間、その価値が認識されないままだったという珍しい来歴を持つ遺物だ。

古代ローマ後期からビザンツ帝国にかけての時代(300~800年頃)のものとされる石板。Photo: Courtesy of Sotheby's

サザビーズの書籍・文書部門が12月18日、現存する最古の十戒の石板をオークションに出品する。約1500年前のものとされる石板は、重さ約52キロ、長辺が約60センチメートルの大理石製で、古ヘブライ文字が刻まれている。予想落札価格は100万から200万ドル(直近の為替レートで約1億5500万〜3億1000万円、以下同)。

サザビーズでユダヤ教関連資料、書籍、文書のシニアスペシャリストを務めるシャロン・リバーマン・ミンツは、US版ARTnewsの取材にこう答えた。

「この石板には非常に高い価値があります。それを公開オークションで販売できるのは大きな喜びです」

古代ローマ後期からビザンツ帝国時代(300~800年頃)のものとされる石板は、1913年にイスラエル南部の海岸沿いで行われた鉄道建設に伴う発掘調査で出土した。しかしその歴史的重要性は、1943年に研究者が購入するまで30年にわたり認識されないままだった。サザビーズのプレスリリースによれば、石版はその地にある家の入り口で敷石として使われ、碑文が上を向いていたために人に踏まれていたという。ミンツは石板の重要性をこう強調する。

「これは本当に唯一無二の品で、私がこれまでに扱った歴史的遺物の中で最も重要なものの1つです」

昨年サザビーズでは、現存する最古のほぼ完全なヘブライ語聖書のオークションを行った。約1100年前のものとされ、サスーン写本として知られるこの聖書は、テルアビブにあるANUユダヤ人博物館に3810万ドル(約59億円)で落札され、オークションに出品された歴史的文書の中で史上2番目の高額を記録した。そのとき、出品者であるスイスの銀行家、ジェイコブ(ジャッキー)・サフラとの窓口として中心的な役割を果たしたのがミンツだった。

サザビーズでは今年9月にも、スペイン中世期で最も古く、完全な形で残るヘブライ語聖書が700万ドル(約11億円)で落札されている。シェム・トブ聖書と呼ばれ、768ページにわたる700年前のこの写本も、ジェイコブ・サフラのコレクションから出品されたものだ。

古美術品の輸出に関する国内法や、盗品や略奪品の売買に関する国際条約が整備されてきたことで、この手の美術品がオークションに出ることは滅多になくなっている。ミンツは、イスラエルが古美術品に関する法律を制定した年を挙げ、「聖地で見つかった特に重要な遺物で、1978年以前にイスラエル国外に出たものは非常にめずらしい」と話す。また、今回の石板の委託者は、正規の輸出許可証と十分な出所情報を揃えていたとし、それは「必ず最初に確認することです」と付け加えた。

最近は文化施設の間でも、オークションに出品されるユダヤ教関連美術品への関心が高まっており、昨年にはボストン美術館とヒューストン美術館がユダヤ教の儀式芸術に焦点を当てた展示室を開設した。12月のオークションについてミンツはこう期待を語る。

「こうした大手美術館も入手を検討していることでしょう。彼らは自分たちの美術館にふさわしい傑作、最高のものを求めています。そのため、この種の美術品が市場に出ると引き合いが殺到します。文化施設や個人コレクターが、こぞってそのチャンスを狙うからです」

2020年12月にサザビーズは、ヘブライ語やユダヤ教の聖書、古文書の収集家として名高いサスーン家のコレクションから68点のユダヤ教関連の美術品や文書を販売している。ミンツによれば、コロナ禍にあったこの時期でさえ、東アジアからヨーロッパ、イスラエル、アメリカまで、幅広い地域からオンラインで入札があったという。ミンツは、十戒の石版も同様に、世界中から関心が寄せられるだろうとしてこう語った。

「西洋文明を支える基礎となる古代の遺物に、これほど幅広い層から関心が集まるのです。これは文化や信仰、そして時間をつなぐ架け橋と言えるでしょう。期待に胸が高鳴ります」

(翻訳:石井佳子)

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