シンディ&ハワード・ラコフスキー(Cindy and Howard Rachofsky)
拠点:アメリカ・ダラス
職業:投資家
収集分野:現代アート(主にイタリア、日本、韓国)、戦後美術(主にイタリア、日本、韓国)
ハワード・ラコフスキーは、「壁に掛かっているものこそが、豊かさを目に見える形で表している」と、ブルームバーグ・ビジネスに語ったことがある。彼とシンディ夫人が壁に掛けているのは、アメリカとヨーロッパの戦後美術を中心とした約1200点のコレクションだ。所有作品は、ダラスの邸宅で時折掛け替えをしながら飾られ、一部は私設アートスペースのウェアハウス・ダラスに展示されている。
ウェアハウスは、ハワードがコレクター仲間の故ヴァーノン・フォルコナーとともに立ち上げたもので、研究者やキュレーター、評論家、学生向けに所蔵品を公開している。2017年にダラス・アートフェアの共同創設者であるジョン・サグルーは、アートネット・ニュースにこう語っている。「ハワードは、ダラスで育つ子どもたちが一流の現代アートを見るのに、よその都市へ行かなければならない状況を変えたかった。その思いは自分の若い頃の経験からきている。彼は、アートのすそ野を広げる活動を積極的に推進する地域のリーダーと言える」
カルチャーメディア、Wマガジンの記事によると、ラコフスキー夫妻のお気に入りの作品の1つは、トム・フリードマンの《Untitled》(2003)だという。発泡スチロールでできた巨大な青い男の彫刻で、なぜか恥ずかしそうに自分の靴を見つめている。「とても軽いのに存在感がある。そこに一目惚れしました」と夫妻は語っている。
夫妻はまた、戦後日本の具体運動やイタリアのアルテ・ポーヴェラ(*1)など、アメリカではまだ広く認知されていない分野のアートに造詣が深い。そのコレクションで特筆すべきなのは、山口長男の《One Eye (Yellow)》(1959)と柳幸典の《Ground Transposition》(1987/2019)。どちらも大胆な表現と政治的メッセージが混在する、日本の戦後・現代美術の金字塔的作品と言うべきものだ。
*1 「貧しい芸術」の意。1960年代〜70年代初頭にイタリアで興った芸術運動で、新聞紙、木材、石、鉄などが多用された。
特に、2019年にロサンゼルスのギャラリー、ブラム&ポーで展示された《Ground Transposition》には、明確な政治的メッセージがある。この作品は2つの巨大な風船で構成され、風船の1つは天井にへばりつき、もう1つは床の上にあるが、両方とも表面は土で覆われている。一方は、米軍の基地が多く存在する沖縄の土。もう一方は、第2次世界大戦中にカリフォルニア州マンザナーにあった日系人強制収容所の土だ。