ARTnewsJAPAN

【ARTnews Awards 2024】が決定! 「生涯功績賞」は、奴隷制の記憶を伝えるマリア・マグダレーナ・カンポス・ポンス

US版ARTnewsは、アメリカの芸術機関における優れた業績を称える初のアワードARTnews Awards」を発表した。審査員を務めたのは、第59回ヴェネチア・ビエンナーレのディレクターを務めたチェチリア・アレマーニ、ソロモン・R・グッゲンハイム美術館の副館長であるナオミ・ベックウィズなど、アメリカ在住の著名なキュレータ6人と、USARTnewsのシニアエディター2人。選考の対象は、202391日から2024831日までの間に開催された展覧会で、5部門から各1名が選出された。そのうち、生涯功績賞に選ばれたのは、マリア・マグダレーナ・カンポス・ポンス(「Maria Magdalena Campos-Pons: Behold」展、ブルックリン美術館、2023915日~2024114日)だ。

マリア・マグダレーナ・カンポス・ポンス、《When We Gather》(2020)。ARTnewsアワード2024紹介動画より引用。

現在65歳のマリア・マグダレーナ・カンポス=ポンスは、1959年にキューバで生まれ、現在はテネシー州ナッシュビルを拠点に活動する。彼女は30年以上にわたり、自らの身体を用いてパフォーマンス、写真、インスタレーション、コラージュ、映像作品を制作してきた。その根底には祖国キューバへの思いがあり、キューバの物や場所を作品に取り入れることで、今日まで世代間に残る奴隷制の痛ましい記憶を伝えている。彼女の多種多様な作品群は、「過去」が私たち自身や周りの大切な人々、そして私たちが収集する物にどのように埋め込まれているかを示している。

ブルックリン美術館で開催された「Maria Magdalena Campos-Pons: Behold」(その後、フリスト美術館、デューク大学ナッシャー美術館にも巡回)の礎となったのは、カンポス=ポンスが1998年にニューヨーク近代美術館(MoMA)で発表したインスタレーション《Spoken Softly with Mama》だ。本作は、カンポス=ポンスが長年にわたって抱いてきたテーマを結晶させたもので、ジャズミュージシャンのニール・レナードと共同制作した。同作は、カンポス=ポンズのビデオ映像や家族の写真、アイロン台、アイロンなどを用いて、奴隷制度に端を発する家事労働者として黒人女性が長年担ってきた歴史に敬意を表している。インスタレーションはその知られざる歴史に捧げる祭壇のようでもある。アイロンは奴隷としてアフリカから海外に移送された船の形を想起させ、これらの女性たちが何世紀にもわたって恐怖に支配されていたことを表している。

また、「Maria Magdalena Campos-Pons: Behold」では、アイデンティティの複雑さに対するカンポス=ポンスの様々なアプローチが明らかにされた。展示された自身の姿を写した写真などで構成されるインスタレーションには、アフリカ系キューバ人の伝統や、自身のルーツであるヨルバ族や中国、ヒスパニックの歴史、キューバの民間信仰サンテリアの司祭だった祖母の人生、自身がボストンやテネシー州ナッシュビルで過ごした時間など、数十年にわたる親族の歴史や自身の経験が多面的に表現されていた。

彼女の近作で最近MoMAに収蔵された《マグノリアの木の秘密》(2021)は、自身のアトリエがあるアメリカ南部・ナッシュビルの大学の植物園で栽培されているマグノリアが描かれている。植物園はこの土地の歴史を物語る構成になっており、カンポス=ポンスは植物園を訪れると、「心の奥底では、南部の自然美が持つ恐ろしい歴史についても思いを巡らせている」と話す。木々が長年にわたって目撃してきたものを理解しようとするように、木の傍らに自身の姿が描かれている。

生涯功績賞の佳作には、ロサンゼルス・カウンティ美術館にて2023年10月26日~2024年7月21日の間に「エンジェルス川の絵画:ジュディ・バカとグレート・ウォール」展を開催したジュディス・F・バカが選ばれた。

1946年生まれのアーティスト・活動家のジュディス・F・バカは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)教授としてチカーノや世界の芸術文化を研究している。彼女の名を知らしめたのが、現在も進行中の世界最大の壁画プロジェクト《グレート・ウォール》だ。1974年にバカが共同設立したソーシャル・アンド・パブリック・アート・リソース・センター(SPARC)の監督のもと、かつてロサンゼルス川が流れていたトゥハンガ・ウォッシュ沿いで若者たちと描き始めた壁画には、アメリカ先住民や女性、有色人種の視点から、スペイン人の到来や、さまざまな移民グループのロサンゼルスへの到着、メキシコ系アメリカ人の国外追放、日系アメリカ人の強制収容といった歴史的出来事が描いている。

2023年から2024年にかけてLACMAで開催された同展では、展示室内でバカとスタッフが《グレート・ウォール》の公開制作を行った。同展は、バカが主要機関からの支援を得られなかった時期も含めて40年以上に渡って続けてきたことが、ロサンゼルスの美術史において評価されたことを意味する。最近、メロン財団はSPARCに500万ドル(約7憶5000万円)を寄付し、《グレート・ウォール》の新作制作を支援した。(翻訳:編集部)

ノミネート

from ARTnews

あわせて読みたい