ル・コルビュジエが芸術家のために建てた邸宅が約8億円で売り出し中。ピュリスムを体現する歴史的建造物
パリ16区にある、ル・コルビュジエ(1887-1965)がアーティストのために手掛けた邸宅が現在売り出し中だ。「ピュリスム(純粋主義)」の原則を体現するこの物件は、1975年にフランスの歴史的建造物に指定されている。
モダニズム建築の巨匠ル・コルビュジエ(1887-1965)が1925年に手掛けたパリの邸宅が現在販売中とアートネットが伝えた。物件は、2人の彫刻家、オスカー・ミエチャニノフ(1884-1956)とジャック・リプシッツ(1891-1973)のために建てられた、通称「ミエチャニノフ邸」。ミエチャニノフは1906年に現在のオデーサからパリに移住し、モディリアーニやディエゴ・リベラらと親交を深め、サロンや国際展示会でキャリアを築いた。リトアニア出身のリプシッツは彼と友人関係にあり、キュビスムの彫刻作品を制作していた。
この物件を扱うArchitecture de Collectionによると、ミエチャニノフとリプシッツの2人は1921年にオークション会場でル・コルビュジエと出会い、コレクター仲間として意気投合。ル・コルビュジエとその片腕的存在だった建築家ピエール・ジャンヌレに、生活スペース、アトリエ、展示スペースをそれぞれに持つ2棟の建物の設計を依頼した。ル・コルビュジエは、彫刻の取り扱いを考慮して、アトリエを1階に配置。高い天井と大きな窓を設けてゆったり制作できるようにした。また、連絡通路や屋上に広々としたテラスを設け、双方の交流の場を作った。
ミエチャニノフ邸は、パリ16区の高級住宅街、ブローニュ=ビヤンクール地区にあり、敷地面積は約400平方メートル。ミエチャニノフと妻が暮らした3階建てと、2階建てのリプシッツ宅の2棟からなる。居住空間は計241平方メートルで、4つの寝室、3つの浴室を備えている。アトリエは、前の持ち主によって日当たりの良い居室空間へとリフォームされているが、目を引く円筒形の塔、広々としたデッキ、そして内部の曲線を描く階段など、当時人気だったクルーズ船をモチーフにした「ストリームライン・モダン」スタイルを随所に見ることができる。また、同物件の幾何学的な装飾やミニマルなデザインの窓はル・コルビュジエが初期に打ち立てた芸術的思想「ピュリスム(純粋主義)」の原則を体現しているとして、1975年にフランスの歴史的建造物に指定されている。物件の売り出し価格は495万ユーロ(約8億円)。
ル・コルビュジエは過去、ブローニュ=ビヤンクールに2軒のピュリスム様式の邸宅「クック邸」(1926)と「テルニシアン邸」(1927)を手掛けている。クック邸は現存しているが、テルニシアン邸は1935年に取り壊され、1階の1部分が残るのみだ。