世界の美術館来館者数、完全回復ならず──ルーブルは首位維持、日本は7館がランクイン

アート・ニュースペーパーが2025年の世界の美術館来館者ランキングを発表した。全体の来館者数は回復基調にあるものの、コロナ前の水準にはなお届かず、新興地域の伸長と既存大規模館への集中、そして過密といった課題が併存する状況が示された。

The Louvre Museum in Paris. Photo: Getty Images
パリのルーブル美術館。Photo: Getty Images

アート・ニュースペーパー(TAN)が発表した、最新の世界の美術館来館者数ランキングによると、2025年に上位100館を訪れた来館者数は、計約2億人に上った。しかしこの数字は、世界中の美術館が数カ月にわたって閉鎖を余儀なくされた新型コロナウイルスのパンデミック直前の、2019年の記録である2億3000万人をいまだ下回っている。つまり、コロナ禍から5年が経過した現在もなお、美術館全体として完全な回復には至っていないことが浮き彫りになった。

TANによれば、美術館の歴史が浅い中東やアジアで続々と誕生した新興ミュージアムが大勢の来館者を集める一方、ニューヨークやロンドンといった制度的基盤がすでに確立された都市の美術館も、同様に高い集客を維持した。

ルーブル美術館が900万人で首位を維持

パリのルーヴル美術館は約900万人の来館者を集め、引き続き首位の座を守った。トップ10には、バチカン美術館、ソウルの国立中央博物館、ロンドンの大英博物館、ニューヨークのメトロポリタン美術館、サンクトペテルブルクのロシア国立美術館、メキシコシティの国立人類学博物館、上海博物館東館、ロンドンのテート・モダン、そしてロンドン・ナショナル・ギャラリーが名を連ねた。

イギリスでは、ロンドン・ナショナル・ギャラリーがレオナルド・ダ・ヴィンチフィンセント・ファン・ゴッホの名作を擁するセインズベリー・ウィングを昨年5月に再オープンしたにもかかわらず、来館者数はコロナ禍前の水準を回復できていないとTANは指摘する。2025年の来館者数は約410万人にとどまり、2019年比で依然30%減という状況だ。

欧州大陸の美術館は全体として横ばいで推移した。マドリードのプラド美術館は来館者数が初めて350万人を突破し、小幅な伸びを記録。館長のミゲル・ファロミルは1月の会見で、この数字に十分満足しているとしたうえで、「これ以上の来館者は一人も必要ない」と語り、過度な混雑が美術館を「崩壊」させかねないという事例としてルーブルを挙げた(なお、ルーブルは前年比で来館者数を増やしている)。パリのオルセー美術館ポンピドゥー・センターは前年並みの水準を維持。バチカン美術館は「引き続き人であふれ」、約690万人を迎え入れた。

マドリードのプラド美術館。2025年の来館者数は350万人を迎えた。Photo: Bildagentur-online/ Universal Images Group via Getty Images

東アジアの中でも韓国が大躍進

東アジアでは来館者数の大幅な増加が目立った。上海博物館東館は2024年に約420万人という好成績でデビューを飾ったが、2025年はさらに約460万人へと記録を伸ばした。そのうち約280万人が大型特別展「On Top of the Pyramid: The Civilisation of Ancient Egypt(ピラミッドの頂点:古代エジプト文明)」を目当てに訪れた。なお、中国全土に数千館ある国立美術館・博物館は今回のレポートの締め切りまでに数字を報告しておらず、TANはそれらの一部がランキングに含まれていれば、トップ10入りしていた可能性があると指摘している。

一方、歴史ある美術館が多く成熟した市場である日本からは、チームラボの2館(プラネッツ、ボーダレス)を含め合計7館がランクインしたが、増減が混在した。東京国立博物館は若干増の約260万人を記録(23位)、国立西洋美術館では「モネ 睡蓮のとき」展(2024年10月5日〜2025年2月11日)が集客に貢献し、来館者数は20%増の約165万人となった(43位)。また東京都美術館は、前年比14%減の約170万人(41位)にとどまった。

これに対して、韓国は美術館・博物館来館者数において著しい成長を遂げた。ソウルの国立中央博物館(本館)は2024年の約380万人から2025年には約650万人へと70%超もの急増を記録し、TANは「これは私たちがこれまで見てきた中でも、絶対数における最大級の増加のひとつだ」と記している。さらに、国立中央博物館の地方分館でも来館者数が増加しており、ソウルの国立現代美術館も28%増の約210万人を達成した。その背景には「韓国文化への世界的な熱狂」があると見られている。

オーストラリアでは、ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館が約240万人の来館者を記録し、2019年比でほぼ2倍という水準に達した。

大エジプト博物館は1日最大1万8000人を記録

大エジプト博物館に展示されているラムセス2世像。Photo: © Grand Egyptian Museum

ガザへの軍事作戦をめぐり、ジェノサイドとの批判が国際的に広まるイスラエルでは、戦争の影が美術館にも色濃く落ちている。イスラエル博物館は前年比40%減という大幅な来館者減を記録し、テル・アビブ美術館では国際展が相次いでキャンセルとなるなど展覧会プログラムが「深刻な影響」を受けた。

エジプトでは、カイロ郊外に位置する大エジプト博物館が最大の話題を集めた。11月に開館したばかりにもかかわらず、1日最大約1万8000人の来館者を記録しており、年換算では約650万人に相当する。TANはこれを大英博物館と同水準の集客力と指摘している。

アメリカは自然災害や政権の監視強化が影響

アメリカでは、国内で起きたさまざまな出来事の中でも特に、2025年1月に発生したロサンゼルスの山火事と、10〜11月の政府機関閉鎖が美術館の来館者数に大きな影響を与えた。ゲッティ・ヴィラは火災による直接的な被害こそ免れたものの、年間のほぼ半分を休館していたため、来館者数は58%減と大幅に落ち込んだ。一方、ゲッティ・センターは来館者数を伸ばし、アメリカ国内で6番目に来館者の多い美術館となった。

ワシントンD.C.では、連邦政府系施設が一時閉鎖の影響を受け軒並み来館者数を落とした。ナショナル・ギャラリー(2024年比28%減)、国立アフリカン・アメリカン歴史文化博物館(同13%減)、ナショナル・ポートレート・ギャラリー(同26%減)、スミソニアン・アメリカン・アート・ミュージアム(同44%減)がその代表例だ。こうした落ち込みはいずれも、トランプ政権による美術館活動への監視強化という激動の1年を背景にしている。

アメリカ最多来館者数を誇るのは、引き続きニューヨークのメトロポリタン美術館。前年比4%増となる約600万人を記録し、世界5位の座を維持した。しかしTANが注目するのは、アートの中心地から離れた地方の小規模美術館の躍進だ。サンディエゴ現代美術館(MCA)は前年比ほぼ2倍の約13万2000人を達成し、クリーブランド美術館とトレド美術館もいずれも20%超の増加を見せた。

大きな伸びを示したもう2カ国が、メキシコブラジルだ。メキシコシティの国立人類学博物館は2024年比36%増となる過去最多の約510万人を記録。ブラジルのサンパウロ美術館(MASP)は、長らく待望されていた増築棟の再オープンとクロード・モネの人気展覧会が相乗効果を発揮し、来館者数が約120万人と2倍以上に跳ね上がった。

from ARTnews

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