ARTnewsJAPAN

「AI未使用」ゴッホやルノワールの作品世界そのままの動画がSNSで大人気! 美術館も注目

最近、人工知能(AI)を使って名画に動きを与える動画がSNSで話題になったが、あえてAIを使わず、ゴッホ《夜のカフェテラス》(1888)やルノワール《ポン・ヌフ、パリ》(1872)などの作品世界をそのままにアニメ化するアーティストに注目が集まっている。

ルノワール《ポン・ヌフ、パリ》(1872)の動画より。Photo: instagram/@andrey.zakirzyanov

ゴッホ《夜のカフェテラス》(1888)やルノワール《ポン・ヌフ、パリ》(1872)などの名画が、作品世界そのままに動くアニメーションがSNSで話題になっているとアートニュースペーパーが伝えた。その作者は、アンドレイ・ザキルシャノフ。彼はジャンル横断的に活動するアーティストで、アニメーション制作は「芸術的衝動」によって始めたという。アニメは2023年12月から不定期でInstagramに投稿していたが、そのたびに大きな反響があり、アムステルダムのゴッホ美術館やユネスコなどの美術関連機関も作品をシェアしている。

ザキルジャノフのInstagramには、動画は人工知能(AI)を使っているのかという質問が止まらないが、彼はあえて従来の3Dモデリングソフトウェアを使用し、手作業で制作しているという。

その理由についてザキルジャノフは、「AIは新しい要素を生み出し、それが絵画の本来のエネルギーを殺してしまいます。私がこれまで発表した全ての動画で心がけていたことは、オリジナルのテクスチャ、筆のタッチ、輪郭を維持することです。なぜなら、それらの細かいディテールが作品の本質だからです。私はアーティストのオリジナルのアイデアを本当に尊重しているので、動きを非常に細かなものにするよう努めています」と説明する。それゆえ、作品にもよるが1本の動画を完成させるのに1カ月以上かかることもあるという。

またザキルジャノフは、手作業だからこその面白さがあると語る。ゴッホ《夜のカフェテラス》では、通りを行き交う人々の一部が踊っていたのではないかと想像し、カフェの壁にバンクシーへのさりげないオマージュも加えた。「なぜなら、もしかしたらバンクシーの祖父が当時そこにいたかもしれないじゃないですか」と冗談めかして語った。この動画の最後は、ゴッホが描いた星々がまたたくシーンで終わる。

彼の才能を大きく買っているのが、ワシントン・ナショナル・ギャラリー(NGA)だ。同館のシニア・ソーシャル・メディア・マネージャーであるシドニー・マイヤーズは、「私たちはInstagramで偶然ザキルジャノフの動画を見つけ、目を離せなくなりました。絵画的側面を保ちつつ作品に命を吹き込む彼の独特な能力に、私たちは心を奪われてしまったのです」と話す。

NGAは、ポール・セザンヌ、クロード・モネ、ベルト・モリゾなどの作品と共に印象派の起源に迫る、現在開催中の展覧会「パリ1874:印象派の誕生」(2025年1月19日まで)のプロモーションとして、ザキルジャノフに動画制作を依頼。彼はルノワール《ポン・ヌフ、パリ》(1872)とマネ《鉄道》(1873)の2本を制作し、NGAはそれらを自身のSNSで公開した。すると、オーガニック再生回数で約490万回、エンゲージメント数は約25万回を記録し、NGAのInstagramアカウントだけで2万人以上の新規フォロワーを獲得したという。マイヤーズは、「このような反響は本当に素晴らしいものです。これらの数字は、人々がアートと新しい、思いがけない方法で繋がろうとしていることを示しています」と喜びを語った。

SNS上では、驚嘆の声の一方で、名画をいじくり回す必要性は無いと嘆く声も寄せられている。マイヤーズにとって賛否あることは承知の上で、この動画の狙いは「優れた芸術作品をより身近に感じてもらうこと」なのだ。マイヤーズは、「レオナルド・ダ・ヴィンチやモネの絵画は、ほとんどの人は日常的に目にしません。ですが、SNSでは何十億もの人々が日々絵画について関わり合って学び、発見しています。ザキルジャノフの動画を使ったこの試みによって、これまでナショナルギャラリーのことを聞いたこともなかった人々とも繋がることができるのです」と話した。同館では今後もザキルジャノフをはじめ、他のクリエイターとのコラボレーションを続々と用意しているという。

あわせて読みたい