アーティストの三浦大地とWWFジャパンが再びコラボレーションを発表! アイテムから浮かび上がる環境問題のリアル
かねてより世界的に深刻化する気候変動問題に取り組んできた公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)は、より多くの人々に環境問題を意識してもらうきっかけをつくるべく、アーティストの三浦大地とのコラボレーションを展開している。2024年12月に発表されたコラボレーションでは、新たにTシャツとトートバッグを発売。厳格な基準をクリアしてつくられたアイテムからは、アートがさまざまな環境問題を知るきっかけになる可能性が見えてくる。
WWFジャパンによるアーティスト起用が発展
2019年にオーストラリアで発生した、同国史上最大規模の森林火災。環境保全団体の公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(以下、WWFジャパン)は、オーストラリアの自然再生をめざすべく2021年から独自の取り組みを展開してきた。より多くの人々にこの問題へ関心をもってもらうには、どうすればいいのか。WWFジャパンが選んだのは、アーティストとのコラボレーションだった。
2024年7月にアーティストの三浦大地とコラボレーションしたWWFジャパンは、同年12月に再び三浦とタッグを組み、Tシャツやトートバッグの販売を開始した。WWFジャパンは、初回の反響を次のように振り返る。
「私たちにとってアーティストとのコラボレーションは初の取り組みでしたが、三浦さんのファンを初め、多くの方々に手にとっていただけました。なかには森林保全に強い関心をもってくださる方も多く、WWFへの入会や寄付を行ってくださる方もいらっしゃいました」
近年、美術展などでアーティストがオリジナルグッズを販売する機会は増えているが、それはアートやアーティストのメッセージをグッズを通じてより多くの人々へ届けられるからでもあるのだろう。他方で、たとえ自然保護をテーマとしたグッズ制作であったとしても、グッズをつくること自体がべつのかたちで環境負荷を高めてしまうリスクがあることも事実だ。アパレル産業は以前から環境負荷が厳しく問われており、繊維製造から輸送に至るまで、ブラックボックス化しがちなサプライチェーンの各レイヤーで発生する環境負荷を低減することが喫緊の課題となっている。
「ぼく自身、2019年の大規模火災を受けてチャリティプログラムとして自分がつくったアイテムを販売したときは、単純にオーストラリアのコアラを助けたいと思っていました。でも、その時にWWFの方から環境のことを考えてつくられたプロダクトなのか尋ねられて、ハッとしたんです。たとえ寄付を行っていたとしても、そのプロセスで環境保全を無視してしまったら、結局矛盾する取り組みになってしまうんですよね」
三浦はそう語り、自身もグッズの制作がかえって環境負荷を高めてしまうリスクに気づいていなかったことを明かす。もちろんアーティストグッズの販売を通じて寄付の機会をつくることも重要ではあるが、その活動がべつの形で環境へ負荷をかけてしまうことは本末転倒になりかねない。
繊維産業の環境負荷が世界的な問題に
そんななかで生まれたWWFジャパンと三浦のコラボレーションの特徴は、厳しい基準をクリアしたオーガニックコットンを使って生産されている点にある。今回つくられたアイテムはすべて「GOTS (Global Organic Textile Standard)」と呼ばれるオーガニック繊維の国際認証を取得したものであり、コットンの農園から加工段階の工場、販売まで一貫して分別管理され、トレーサビリティも担保されているという。GOTSの取得にあたっては、厳格な基準に則って、加工のすべての工程で使用する水の管理を含む環境や社会への配慮も求められる。
「厳しい基準が設定されているのは、繊維産業の環境負荷が高いからでもあります。製造工程で使用する水の量も多いですし、農薬や殺虫剤の使用も多いので土壌や水系の汚染も広がると言われます。その結果地域の方々の健康被害に発展してしまうケースもあり、環境と社会、双方にインパクトをもたらす産業だと指摘されています」
そうWWFジャパンが語るように、繊維産業が環境へもたらす影響は世界的に大きな問題となっている。とくにヨーロッパではグリーンウォッシュを防ぐための動きが進んでおり、2024年1月には企業サステナビリティ報告指令、7月にはコーポレートサステナビリティデューデリジェンス指令が施行され、気候変動やサステナビリティ関連のリスクと影響について企業は詳細に情報開示することが義務づけられるようになっている。
「こうした流れを受けて、ブランドやメーカーの方々もGOTSのような認証制度の活用を積極的に進めているように感じます。ヨーロッパの多くのブランドではこうした認証をオーガニック生産の確認手法として利用していると聞きますし、法規制だけではなくてブランド側の望みとしても環境負荷への問題意識は高まっているのだと思います」
もちろん、WWFジャパンも以前から繊維産業の環境負荷を低減する取り組みに着手している。2021年に「WWFジャパン綿製品調達ガイドライン」を制定し、同団体のECストアで販売する製品やノベルティとして使用するグッズはGOTSのような認証を受けたものしか扱わないようにしているという。実際に今回のコラボレーションで生産される製品も、GOTS認証を取得したインドの企業によってつくられたものだ。
「他方で、日本にはオーガニックコットンの表示に関する規制が存在しない状況ですし、GOTSのような認証制度も広く知られていないことも事実です。消費者のみなさまからしても、環境配慮を理由に商品を選ぶような購買行動はまだあまり一般的ではありません。WWFジャパンは水の保全にも取り組んでいるのですが、三浦さんのようなアーティストの作品は人の心を動かすものですし、今回のコラボレーションをきっかけとして、環境問題に取り組む動きがもっと広がっていくとうれしいです」
三浦とのコラボレーションは、オーストラリアの森林保全へ関心をもつきっかけをつくるのみならず、繊維産業をはじめとするさまざまな領域の環境負荷へ意識を向けさせるものにもなるのかもしれない。
アートが環境問題を意識するきっかけに
表面的な環境問題に着目するだけではなく、サプライチェーンまで含めて広く私たちの生活と環境との関わりを問うこと──それはアートのような領域にも広がっている問題意識でもあるだろう。近年は世界中で行われる美術展のために作品を輸送することや、アートフェア参加のために富裕層が世界中を飛び回ることがCO2の排出量増加につながっていると指摘されており、クリスティーズのようなオークションハウスは環境インパクトレポートを発表してもいる。環境問題や気候変動といったテーマへの着目も高まっているほか、AIのようなテクノロジーと水資源やエネルギーの関わりを問う作品を発表するアーティストも現れている。
アーティストによる活動やアーティストと企業のコラボレーションは、こうした複雑な問題をべつの形でより多くの人々へ伝えられる可能性を秘めてもいるのだろう。三浦自身、2024年7月に発売したWWFジャパンとのコラボレーションTシャツがこれまでにはない広がりを生むものになっていたと振り返る。
「同じTシャツをもっている方々がたまたま出会って、コミュニケーションのきっかけになったと聞いたこともありますし、アートやファッション、クリエイティブを通じて環境問題に触れる機会をつくれているのかなと感じます。もちろん森林保全もコアラの保護も繊維産業の環境負荷もシリアスな問題ではありますが、重く考えすぎないほうがいいと思うんです。環境負荷を十分に考えてつくられたものであれば、単純にデザインがかわいいから、ファッションとして好きだからという理由で買ってもいいと思いますし、そんな形で環境と関われることが楽しいと思えるきっかけを生み出すことがクリエイティブの力でもありますから」
そう三浦が語るように、今回発表されたTシャツやトートバッグも三浦の作品を象徴する女性にコアラが抱きつく様子が描かれたかわいらしいアートワークが配されたものだ。ボディにプリントされた「give me more eucalyptus.」というメッセージはコアラの悲痛な叫びでもあるが、日常的にも取り入れやすいデザインとなっている。
「今回のような形でWWFジャパンさんと単なる寄付だけに留まらないコラボレーションを行えたことは個人的にも嬉しいです。ぼく自身、必ずしも常に環境負荷を意識して着るものを選んでいるわけではないのですが、最近は単純にいいなと思えるブランドがリサイクル素材を使ったりプラスチックの利用を避けていたり、環境に配慮していることが多いと感じます。いいものづくりを目指すなかで自然とオーガニックなものが生まれたり、環境負荷を下げるような取り組みにつながっていくのかもしれません」
WWFジャパンと三浦大地のコラボレーションは、アートやアーティストのもつ力を証明するものにもなるだろう。かわいらしいコアラが描かれたTシャツやトートバッグは、わたしたちといまこの地球上に広がるさまざまな環境問題とつなげてくれるはずだ。
三浦大地とのコラボレーションによるグッズは、現在WWFジャパンの公式オンラインショップ「PANDA SHOP」で販売されている。今回のコラボレーションの起点となった「よみがえれコアラの森 これからの物語」プロジェクトは、2025年2月末まで継続予定だ。