西野達やevalaが新作を発表! ファッション×カルチャーの祭典、渋谷ファッションウイークがスタート
東京の文化の中心地、渋谷を舞台に「渋谷ファッションウイーク」が始まった。期間中は多様な文化が入り混じるこの街のさまざまな場所で、アートをはじめとするカルチャーとファッションをつなぐイベントが繰り広げられる。2027年度の再オープンを目指し数々のチャレンジを続ける渋谷・Bunkamuraを舞台としたアートプロジェクト他、注目イベントを紹介する。
2024年春で第21回となる「渋谷ファッションウイーク(SFW)」がスタートした。今シーズンは「THINK」をテーマに、「サステナブルとは何か」という問いを、ランウェイショーやアート展示、イベントなど様々な企画を通じて表現していく。
SFWの舞台である渋谷の街は現在、「100年に1度」とも言われる大規模再開発が進行中。大袈裟ではなく、日々、目まぐるしく変化している。そんな中で、昨年1月に東急百貨店本店が閉館し、4月にはその跡地の工事のためBunkamuraがオーチャードホールを除いて休館中だが、アートをはじめ文化を愛する人々にとって思い出深いランドマークが、SFWの期間限定でアートの展示会場として復活するのは嬉しい限りだ。
Bunkamuraの吹き抜けから世界に広がるカルチャーの光
このシンボリックな機会に白羽の矢が立てられたアーティストの一人、西野達は、かつてBunkamuraの中でもサロン的な役割を果たしてきたドゥ マゴ パリやブックショップなどがあった地下1階に広がる吹き抜けを丸ごと使って、大型インスタレーションを展示する。西野はこれまで、シンガポールのマーライオンなど都市のオブジェの周囲を壁で囲って居室を作り上げるプロジェクトや、世界の様々な街で車や街灯、家具などを積み重ねたインスタレーションを展開し、日常と非日常を覆す作品を発表してきた。2023年11月には、24時間限定で渋谷のハチ公像に部屋を与えるアートプロジェクト《ハチ公の部屋》を敢行し、世界的知名度を誇る伝説の犬の生誕100周年を祝った。
今回、その名も《ミラーボールファニチャー》と名付けた作品の制作で西野がこだわったのは、「Bunkamuraで実際に日常的に使われていた、Bunkamuraにとって重要な家具や什器を使うこと」。スタッフと一緒に選んだそれらを積み上げ、ミラーを貼り、ミラーボールとして再構成したのが本作だ。用いられた各オブジェはミラーで覆われているため元の姿を捉えるには自らの想像力に任せるほかないのだが(この場に思い出がある人にとっては、その行為もまた楽しい)、それらが跳ね返す眩い光の粒たちが、建物の壁や床、シルエット、あるいはその記憶までをもあらためて照らし出しているよう。西野は、この作品のコンセプトをこう説明する。
「これまでも車をミラーボールにした作品などを発表してきましたが、今回は、吹き抜けに吊り下げられたミラーボール状の作品に強い光を当てることで、反射したカルチャーの光がBunkamuraの吹き抜けから世界に拡散し、未来に向かってカルチャーの種子が世界中にばら撒かれ、絶えず育っていってほしい。そんな思いを込めました」
休館中のこの空間を作品発表の舞台として再活用するのはBunkamuraにとっても今回が初。西野は、「渋谷は日本の若者たちが独自のファッションや文化を育んできた場所。これを機に、この素晴らしい空間がアーティストの実験の場として再活用されることを願っています」と続けた。
「愉快な音の亡霊たち」が奏でるオーケストラ
一方、同施設内の旧BunkamuraStudioでは、音楽家、サウンドアーティストのevalaが新作インスタレーションを発表。evalaは立体音響を駆使した独自の「空間的作曲」によって、その場限りの先鋭的な作品を国内外の美術館やギャラリー、劇場などで発表してきた。完全な暗闇の中で体験する音だけの映画『Sea, See, She – まだ見ぬ君へ』(2020)は、第24回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞を受賞している。
今回の作品発表の場となったBunkamuraStudioは、ビートルズが使用したことで知られるイギリス・ロンドンのアビーロードを参考に1989年に設立された録音スタジオ。一般のオーディエンスには知られざる、しかし日本における音楽の発展に多大なる貢献をしてきた伝説のスタジオであり、evalaにとっても、かつてたった1.5秒ほどのサウンドロゴの制作のためにわざわざこのスタジオを指定したほど、憧れの場所だったという。
昨年、録音スタジオとしての役割を終え完全にその機能を失った、evalaが「ある種のvoid(虚空)」と呼ぶこの薄暗い展示会場に入ると、30個ほどの小さなサイコロ状のスピーカー(なんと100円ショップで入手したという)が足元にゴロゴロと転がっており、無数のコードがまるで生きた蔦のように床を這っている。それぞれのスピーカーからは「愉快な音の亡霊たち」、つまり「普段は音楽では使われないであろうノイズなど」が立ち現れ、オーケストラを編成している。《Sprout》と名付けられたこの作品は、35年の歴史に幕を下ろしたこのスタジオを舞台に、新しい価値が芽吹いていくことを願うevalaらしい賛歌だ。
「いわゆる音楽からははみ出してしまった音たちを集めて、まさにオーケストラのように空間的にここで実践してみたら何が起きるか。曲を流通させるためのスタジオ空間を再現するような何かではなく、むしろ音楽スタジオでは全く行われてこなかった新しい実験を行いたいと考えました」
さて、西野とevalaの作品を体験したあとは、同じく地下1階の旧ブックショップに行ってみよう。そこでは両作家に関連するプロダクトなどの販売に加え、アーティストの大山エンリコイサムが昨年、アニエスべー ギャラリー ブティックで開催した個展「Notes Rings Spirals」から選ばれた作品展示も。また、ファッションデザイナー、建築家、写真家、アーティストなどのクリエイター、アート系ブックストアなどが、それぞれの蔵書から厳選したアートブック、写真集、マルチプル作品などを出品するマーケットも開催中。売上の一部は能登半島地震の義援金として寄付される。
THE INSTALLATION Ⅱ
会期:3月16日(土)- 24日(日)
会場:Bunkamura B1F
時間:13:00 - 20:00(24日は18:00まで)
旧東急百貨店本店がプロジェクションマッピング会場に
またSFWが終了する3月24日(日)まで、旧東急百貨店本店の壁一面が、プロジェクションマッピング作品の「キャンバス」に生まれ変わる。これはSFW と、アートとデジタルテクノロジーを通じて人々の創造性を社会に発揮することを目的に、渋谷に設けられた活動拠点「シビック・クリエイティブ・ベース東京(CCBT)」の共催によるプロジェクト。CCBTは、これまでクリエイターに新たな創作活動の機会を提供するフェローのほか、アート、テクノロジー、デザインの多様なトピックを学ぶトークやレクチャー、コミュニティ形成を行ってきた。
本展では、CCBTがコンピューターによるデザインやブロックチェーンの仕組みをテーマに開催した「未来提案型キャンプ」から生み出され、恵比寿映像祭 2024のオフサイト展示でも披露されたジェネラティブ・アート作品のうち数点を上映する。映像言語としてのプログラミングや、アルゴリズムが織りなす最先端の多彩な表現を目撃しよう。
THE INSTALLATIONⅢ ~on the wall~
会期:開催中~24日(日)
会場:旧東急百貨店本店 東側壁面
時間:18:00~21:00
渋谷駅東口地下広場に中里唯馬の最先端クリエーションが登場
一方、渋谷の新たなスポットとして2019年にオープンした渋谷駅東口地下広場で開催される、ファッションデザイナー、中里唯馬の展覧会も見逃せない。2016年以降、パリ・オートクチュール・コレクションで作品発表を行う唯一の日本人デザイナーである中里は、独創的な発想でファッションの持続可能性を追求してきた。3月16日から中里の制作の過程と思考に迫るドキュメンタリー映画『燃えるドレスを紡いで』(監督:関根光才)が公開されるほか、フランス北部パ・ド・カレーにあるレースとファッションの博物館では、2024年6月から2025年1月まで、非ヨーロッパ出身デザイナーとして初めて個展「BEYOND COUTURE」を開催することが決まっている。今回、渋谷で発表されるのはこの個展とも連動した作品であり、中里がこれまで数々の実験を共に行ってきたバイオベンチャー企業「Spiber」の人工タンパク質素材「Brewed Protein™」を使用した、未来感あふれるコスチュームを間近で鑑賞することができるまたとない機会だ。
会期中は、今回のテーマである「THINK」するためのスペース「Think Lounge」が設けられるほか、『燃えるドレスを紡いで』にちなんだトークイベントも開催予定だ(詳細は公式HPにて告知)。
THE INSTALLATION Ⅰ
会期:3月17日(日)~ 24日(日)
会場:渋谷駅東口地下広場
SHIBUYA FASHION WEEK
会期:3月15日(土)~ 24日(日)
会場:bunkamura、渋谷駅東口地下広場、旧東急百貨店本店 東側壁面ほか、渋谷各所