暗号資産の開放はオークション業界の救いの手となり得るか。サザビーズが2月セールで新たな試み
大手オークションハウスの業績不振が続く中、サザビーズは2月にサウジアラビアで行う初のイブニングセールの全アイテムで暗号資産を受け入れることを決めた。その背景には、新たな買い手の開拓に寄与するだろうとの目論見がある。
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1月23日、トランプ米大統領が暗号資産(仮想通貨)推進の大統領令に署名し、規制の枠組みや国家備蓄の検討などを行う作業部会の設置に向けて動き出した。同大統領が暗号資産に積極的な姿勢を示していることで、アメリカをはじめ各国でデジタル資産市場をめぐる前向きな変化が起きつつある。
こうした動きに望みをかけているのがオークション業界だ。大手オークション会社の業績はこの2年低迷しており、ロンドンを拠点とするアートマーケット調査会社ArtTacticの報告書によると、サザビーズ、クリスティーズ、フィリップスの三大オークションハウスの2024年におけるオークション売上高総額は2023年の約3割減、2022年比では半減近くまで落ち込んでいる。
そんな中、最近のオークションで注目を浴びたのが中国の起業家で、暗号資産プラットフォームTRONの創設者、ジャスティン・サンだ。サンは昨年11月20日にサザビーズ・ニューヨークで、マウリツィオ・カテランの「バナナを壁にダクトテープで貼り付けた」作品《Comedian(コメディアン)》(2019)を、手数料込み624万ドル(直近の為替レートで約9億7000万円、以下特記のない場合は同様)で落札。支払いは暗号資産で行った。サザビーズとクリスティーズは、2021年から「特定の非デジタル作品」について、暗号資産での支払いを受け入れ始めている。
暗号資産による支払いが浸透していったのには、2021年のNFTアート市場の勃興も影響している。同年3月、ビープルのNFT作品《Everydays: The First 5000 Days(エブリデイズ:最初の5000日)》がクリスティーズで、約75億円(当時のレート)という途方もない金額でインド出身のデジタル資産投資家に落札され、一大センセーションを巻き起こした。
2021年5月には1万点のエイプ(類人猿)の絵で構成される「Bored Ape Yacht Club(ボアード・エイプ・ヨット・クラブ、略称BAYC)」がローンチされ、PFP NFT(プロフィール画像NFT)のブームが過熱。BAYCのコレクションの中には、1点約26億円(当時のレート)で落札されたものもある。
こうして急拡大したNFTアート市場だが、2022年5月に価格変動リスクが低いとされたステーブルコインUSTと、そのトークンであるLUNAが大暴落。11月には暗号通貨取引所のFTXが破綻するなど、暗号資産とNFTに「冬の時代」が訪れる。
そんな状況にも「ささやかな」変化が訪れつつあるようだ。ArtTacticが発表した「グローバル・アート・マーケット・アウトルック2025」の調査結果によれば、専門家の12%が今年のNFTのパフォーマンスについてポジティブな見方を示している(2024年から倍増したものの、2023年には73%だった)。また調査会社のStatistaは、NFT市場の収益は2025年に6億860万ドル(約940億円)に達すると予測している(ピークとなった2021年の220億ドル=現在の為替レートで3.4兆円には遠く及ばないが)。これらの数字を「成長」と見るのは早計かもしれないが、深刻な低調に喘ぐオークションハウスにとって挽回への「希望」に映ることは否定できない。
加えて、暗号資産やNFTの復調は、業績不振のオークションハウスにとって、新たな顧客層を開拓する糸口になるかもしれない。カテランのバナナを高額落札した暗号資産界の億万長者、ジャスティン・サンの場合、2021年初めに購入したのはデジタルアーティスト、Pakのスクリーンセーバー風NFT作品(1点1500ドル、約23万円)だったが、それから1年も経たないうちに伝統的なファインアートにも収集対象を広げ、アルベルト・ジャコメッティの彫刻《鼻》を7800万ドル(約122億円)で購入している。
サザビーズは2月8日、サウジアラビアで開催する初のイブニングセール「オリジンズ」で、イーサリアムとビットコインを受け入れる。非デジタル作品を含む美術品や時計、宝飾品などが出品されるライブオークション全体が暗号資産に開放されるのも初めてのことだが、湾岸諸国ではデジタルアートや暗号資産取引が成長局面にあるため、新たな買い手の開拓に寄与するだろうとの目論見が背景にある。
一方、クリスティーズによれば、NFT購入者の平均年齢は42歳で、全体の平均54歳よりかなり若い。これは、サンのようにトップコレクターの仲間入りする可能性のある顧客を開拓するため、新規の若いコレクター獲得に重点を置く同社の方針と一致する。
トランプ大統領が「アメリカを暗号資産の中心にする」と公約していることで、デジタル資産関連業界は今後の市場拡大に期待を寄せている。この方針は、業績回復を目指すオークションハウスにとっても光明となるだろうか。