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22億円相当の略奪文化財133点がパキスタンに返還。古美術品大量密売の捜査で発覚

複数の密売組織に関する捜査で押収された133点の古美術品が、ニューヨーク・マンハッタン地区検事局によってパキスタンに返還された。これらの文化財の価値は、総額で1400万ドル相当(直近の為替レートで約22億円)にのぼる。

パキスタンに返還された精巧な装飾のある菩薩の頭部。Photo: Courtesy of HSI New York

5月22日にニューヨーク・マンハッタン地区検事局が発表したプレスリリースによると、133点の略奪文化財の引き渡しのセレモニーには、パキスタンのアーメル・アフメド・アトザイ総領事と米国土安全保障省の特別捜査官も出席。アトザイ総領事はスピーチでこう述べている。

「これらの文化財は、本来あるべき場所に戻されようとしています。しかし、単に物が返還されるのではありません。パキスタンの魂とアイデンティティの一部を取り戻すのです」

検事局のプレスリリースは、別の古美術品密売でも逮捕・起訴されているサブハッシュ・カプールとリチャード・ビールを、この件に関わる容疑者として挙げている。

それによると、ビールは今回の返還品の1つであるストラトン1世時代の金貨(紀元前105~85年頃)を、ジョン・F・ケネディ空港から密輸入しようとしたという。コインは押収され、ビールは昨年1月に数億円相当の古代コインの不正売買に関する複数の容疑で逮捕された。

容疑の中には、イードゥース・マルティアエ(Idus Martiaeを略して「Eid Mar」と刻まれる)と呼ばれる希少な古代ローマ金貨の売買に関する不正も含まれている。古代コインを扱うロンドンオークション会社、ローマ・ヌミズマティクスのオーナー兼経営者だったビールと共謀者のイタロ・ヴェッキは、昨年8月にこの件で有罪判決を受けた。

今回パキスタンへの返還品で注目されたのは、2〜3世紀の菩薩の頭部。石を用いて作られ、蓮をかたどった精巧な頭飾りの彫刻が施されたもので、検事局によると、「カプールが物品の隠匿に使用していたと見られる」倉庫から回収された。

マディソン・アベニューのギャラリー、アート・オブ・ザ・パストの元オーナーであるカプールは、略奪文化財の不正売買に関わっているとして、検事局の古美術品担当部署と国土安全保障省捜査局が長期にわたって捜査の対象としていた。当局は、2011年から2023年の間に2500点以上、推定1億4300万ドル(約223億円)を超える遺物を回収している。

国土安全保障省の捜査官が、「世界で最も多くの遺物を密輸している業者の1人」と呼ぶカプールへの逮捕令状が出されたのは2012年。その後2019年11月に起訴され、2022年にインドの裁判所から10年の刑期を言い渡されている。現在は、インドからの身柄引き渡しが懸案になっている。

US版ARTnewsは、マンハッタン地区検事局に押収品の詳細と具体的な返還先に関する問い合わせを行ったが、回答は得られていない。(翻訳:石井佳子)

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