カテラン「黄金の便器」盗難事件の公判が開始。作品は金塊に分解され、すでに売られた可能性

2019年、イギリス・オックスフォード近郊にあるブレナム宮殿で展示中だったマウリツィオ・カテラン作の18金製の便器《アメリカ》(2016)が盗まれた。この件の窃盗容疑で起訴された3人の男性の公判が今週始まった。

2016年、ニューヨーク・グッゲンハイム美術館のトイレに展示された《アメリカ》(2016)。Photo: Maximiliano Duron/ARTnews

マウリツィオ・カテランの《アメリカ》(2016)が盗まれたのは、2019年9月14日のことだった。当時この作品は、カテランの個展の目玉作品としてイギリス・オックスフォード近郊にあるウィンストン・チャーチルの一族が所有する18世紀の城、ブレナム宮殿で展示されていた。

《アメリカ》はアメリカのコーラー社の便器を型取りし、103キログラムの18金を材料にイタリア・フィレンツェの鋳造所で製作された。貧富格差を皮肉る意図が込められた本作には「99%のための1%の芸術」という説明が付けられ、2016年9月にニューヨーク・グッゲンハイム美術館の「トイレ」で実際に使用出来る形でお披露目されると、たちまち話題に。2019年にブレナム宮殿のトイレで展示された際にも希望者は予約すれば実際に使用することが出来、同作には、480万ポンド(現在の為替レートで約9億円)の保険がかけられていた。

《アメリカ》が盗まれた後、窃盗1件の容疑者として捕らえられたマイケル・ジョーンズ(39歳)は無罪を主張、犯罪財産の移転共謀1件の容疑をかけられたフレッド・ドウ(36歳)とボラ・グッチク(40歳)も否認している。一方、ジョーンズを雇っていた建設業者のジェームズ・シーン(39歳)はすでに容疑を認めているが、ついに今週、否認する3人に対する裁判が始まった。

裁判で、検察官のジュリアン・クリストファーKCはこう主張した。

「この窃盗は綿密な計画のもと、素早く実行されました。5人組だったと考えられる男たちは、盗んだいすゞトラックとフォルクスワーゲン・ゴルフの2台で午前5時直前に宮殿に乗りつけ、施錠された木製の門を潜り抜けてブレナム宮殿の敷地内に侵入しました。彼らが建物内にいたのは、わずか5分間。このような大胆な犯行は、多くの準備なしには不可能です」

実際に、ジョーンズは窃盗の下見として展示前と展示後に2度ブレナム宮殿を訪れていたとされる。現在も行方不明のままの《アメリカ》は、より簡単に売却できるよう少量の金塊に分解されたとも考えられ、アートニュースペーパーの報道によると、2人の男性が金塊を売るためロンドンのハットン・ガーデン地区の宝石商と接触していたという。

2019年の盗難直後、マウリツィオ・カテランはニューヨークタイムズに、「《アメリカ》は99%の人々のための1%でした。そして今もそうであることを願っています。この強盗は、ロビン・フッド的な義賊の心で行われたものと前向きに考えたい」と語っていた。

この裁判の判決は4週間後に言い渡される予定だ。(翻訳:編集部)

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