ダミアン・ハーストが「9億円バナナ」に言及。「芸術への悪評の理由であり、私が芸術を愛する理由」
ダミアン・ハーストが、イギリスの小中高生向けアートプログラムでマウリツィオ・カテランの《コメディアン》(2019)を紹介。その理由を「芸術への悪評の理由であり、私が芸術を愛する理由でもある」と語った。
マウリツィオ・カテランの「本物のバナナを壁にダクトテープで貼り付けた」作品《コメディアン》(2019)。発表当初から物議を醸し、昨年11月にサザビーズでオークションにかけられて約9億円で落札された出来事は記憶に新しい。
この《コメディアン》を、先日ダミアン・ハーストが、イギリスの「アート・イン・スクールズ」が運営する小中高生に良質なアートを届けるプロジェクトで紹介作品に選び話題となった。
「アート・イン・スクールズ」は2023年に発足した非営利組織で、慈善家や慈善団体からの助成金や寄付金によって運営されている。イギリス国内の小学~高校のホールや食堂に高解像度の特殊なテレビ「アートスクリーン」を設置し、アーティストや美術館のキュレーター、文化人が2週に渡って10のアート作品を紹介する「センセーションズ」を上映している。
この活動の意義について、創設者でCEOのウィントン・ロシターは「イギリスのほとんどの子どもや親にとって、美術館は遠くて、お金がかかり、敷居が高いものです。国内全ての子どもや若者たちが幅広い芸術作品に触れる機会を増やすことで、芸術ギャップを埋めることを目指しています」と語っている。
ハーストは、なぜ《コメディアン》を選んだのか。その理由について、彼はプロジェクトの初日に次のように話している。
「《コメディアン》は、芸術が悪い評判を得ている理由であり、私が芸術を愛する理由でもある。完璧で、まさにバナナです」
「つまり、本物であるということは何かの象徴ではないということです。つまり、信頼できるが、同時に信頼できないということです。バナナは時が経つと腐るので交換しなければなりません。それは明らかで、馬鹿げています。私は大声で笑ってしまいますが、真剣なアートなのです」
ハーストは、この作品と共に、テート・ギャラリーに所蔵されているウィリアム・ブレイクの《蚤の亡霊》(1819-20)も推薦した。
アート・イン・スクールズの試みは、3校での試験運用の成功を受けて全国へ展開中だ。ロシターは、「私たちは今、テクノロジーを駆使した全国規模のユニークなソリューションを提供しています。私たちの目標は、場所や背景に関係なく、全ての学生が芸術の持つ変革の力を享受できるようにすることです」と意気込みを語る。
前ロイヤル・アカデミー最高経営責任者で、ロンドン・ナショナルギャラリーおよびナショナル・ポートレート・ギャラリー館長だったサー・チャールズ・ソーマレス・スミスも、この試みについて「美術館が、これまで以上に国内の芸術を多くの若者たちに共有することが可能となるでしょう。これは、文化機関からの幅広い支援に値する野心的なプログラムです」と称えた。
アート・イン・スクールズでは、ハースト以外にも様々なアーティストが生徒たちにアートを伝えている。オプ・アートの旗手として知られるブリジット・ライリーは、ゴッホの《Long Grass with Butterflies》(1890)を選んだ。そして、「一見しただけでは蝶の姿は見えませんが、探しているうちに、様々な種類の植物が目につきます。草むらから見えるものがこれほど多いとは驚きです」とライリーらしいコメントを述べている。
巨大像《Angel of the North》で有名な彫刻家アントニー・ゴームリーは、3つの人工的なランドマークを選んだ。そのうちのひとつが、紀元前3100年から2900年頃に作られたオークニー諸島のステネス石群だ。彼は太古の石群について、「それらは私たちを現在に根付かせ、同時に空や大地、時間や空間と私たちを結びつけます」と語った。
また、ビジュアル・アーティストのコーネリア・パーカーは、パオロ・ウッチェロの3枚組の絵画《The Battle of San Romano》を選んだ。彼女は、おそらくこの作品が自身の代表作《Cold Dark Matter: An Exploded View》のインスピレーションとなったと話している。(翻訳:編集部)
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