16人の頭蓋骨をシドニーの博物館がパプアニューギニアに返還。19世紀のロシア人学者が研究用に収集
約150年前にロシア人の科学者がパプアニューギニアから持ち帰り、シドニーの博物館に保管されていた16人分の頭蓋骨が返還された。返還のきっかけを作ったのは、そのロシア人学者の子孫だった。

2月末、オーストラリアのシドニーにあるチャウ・チャック・ウィング博物館が、パプアニューギニア・マダン州のゴレンドゥやビルビルなど6つの村に、16人分の頭蓋骨を返還した。
この頭蓋骨は、ロシアの民族誌学者、生物学者のニコライ・N・ミクロホ=マクレイが1876年から77年にかけてパプアニューギニアに滞在中、マダン州のライ海岸で入手したもの。彼は当時の日誌に、埋められていた頭蓋骨を掘り起こしたのではなく、地元民から供されたものだと記している。
その頃、有色人種は白人よりも劣っており、別の種であるという見方すらあった。ミクロホ=マクレイは、異なる人種や民族がコーカソイド(白人)と同じ人間であることを科学で証明するため、頭蓋骨を解剖学的に調査・分析したいと考えた。
ミクロホ=マクレイがシドニーにやってきたのは1878年。そこで自然科学の愛好家で政治家のウィリアム・ジョン・マクリーと知り合い、その協力を得る。マクリーは、慈善活動の一環として1887年にシドニー大学マクリー博物館を設立。ミクロホ=マクレイが88年に亡くなると、頭蓋骨は未亡人から博物館に寄贈された。このマクリー博物館は、2020年にシドニー大学内のチャウ・チャック・ウィング博物館に統合されている。
返還の話は2023年に動き始めた。ミクロホ=マクレイの4代後の甥がライ海岸を訪れ、地元の人々にチャウ・チャック・ウィング博物館にある先祖の頭蓋骨のことを伝えると、彼らから返還が要請されたという。
頭蓋骨を正式に引き渡したチャウ・チャック・ウィング博物館のシニアキュレーター、ジュード・フィルプは、アートニュースペーパー紙の取材にこう答えている。
「ある意味、彼らは(返還を)自分たちの歴史の再生として捉えています。そして、当時の人々のことや、その頃の人々が持っていた英知について思いを馳せているのです」
フィルプや政府関係者が、特別にあつらえた箱に頭蓋骨を入れて船で到着すると、地元の人々は歌と踊りの儀式や焼いた豚などのごちそうで帰還を祝った。同行したパプアニューギニア地域開発・宗教省のジャック・シンボウ次官はこう述べている。
「約150年前、祖先の頭蓋骨をニコライが持ち帰ったのは、人類はみな同じだという彼の考えを証明するためでした。ロシアの戦艦でライ海岸を出発し、ボーイングのジェット機で帰還した遺骨の旅は、時間と距離を超えるものです。こうして先祖に再会させてくれたチャウ・チャック・ウィング博物館に感謝します」(翻訳:石井佳子)
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