アートと食は融合するか? 桑田卓郎が仕掛ける究極のディナーコースをリポート
東京・神谷町の麻布台ヒルズ内にある「Gallery & Restaurant 舞台裏」にて展示「桑田卓郎+く『窯上げうどん』」が3月16日まで開催中だ。同所はその名の通り現代アートのギャラリーと飲食店が合体したスペース。現在、桑田の陶芸作品が展示され、食べ物のうどんがふるまわれている。そうそうないアートとフードが融合したイベントでスペシャルなディナーコースがあると知り、実際に体験してきた。

岐阜・多治見の1300年以上続く伝統的な美濃焼を基礎にしつつ、独自のテクスチャーと色彩で新たな作品を生む桑田卓郎。本展は、彼が釉薬を混ぜるためにうどんをこねる機具を取り入れ、スタジオを訪れたゲストにうどんをふるまうようになったことから着想したという。
レストランスペースとギャラリースペースを備えたGallery & Restaurant 舞台裏では、双方で実際にうどんがメニューとして提供され、食べることができる。桑田の壺から釜揚げされるうどんを、彼の食に関するクラフトライン「く」の食器で食べる体験は美術を身近に感じる機会だ。さらに、平日限定ディナー(完全予約制)ではそれら作品のフルコースが用意されている。こちらではうどんの提供は無いが、全て桑田の作品によるものなので、アート好きにとってまさに垂涎の時間となる。
陶芸と美食というと、かつて一世を風靡したグルメ漫画『美味しんぼ』を思い出す。主人公・山岡士郎の父である希代の陶芸家・海原雄山は食も芸術ととらえ、尋常ならざる美食を追求し、山岡とメニュー対決をしていく漫画だ。海原は自作の陶芸を器に用い、渋く力強く料理を演出する。これを読むと、器と料理は相互高め合うものと認識させられる。こたびのコースは桑田作品と料理の相性はどうなのか?気になるところだ。ちなみに海原のモデルは実在の美術家・北大路魯山人である。
コースは、前菜盛り合わせ、魚料理、肉料理、ひと口デザートの4品。19時より一斉スタートとなる。ギャラリースペースで食すのだが、前菜のインパクトがすごい。

桑田の作品《Untitled》に前菜が盛られてゲストを迎えてくれる。火山をモチーフにしたかのようなフォルムに、まるでレバーのような生温かさを感じる色と材質にジャガイモのフライ、ロースハム、芽キャベツなどが盛られる。食べる側は、ちょっとなんだかグロテスクさを感じつつ食べることになる。のっけからアートと食の爆発だ。味は嗅覚にかなり影響されるというが、視覚もとても影響してくることを感じる。この作品に盛られた素材を食べていいのだろうか?味は大丈夫なのか?作品を傷つけたりしないか?などさまざまな雑念がよぎるのだが、小ぶりのフィンガーフードたちはパリッ、シャクッ、モニュッといくつかの食感が用意され食べ進んでいくことが楽しい。
前菜はこれら冷菜の後にオニオングラタンスープが出る。お猪口サイズのカップに入ってくるのが可愛い。出来立て熱々なのでナプキンで持ってすする。ズッーゥズッーゥと舌を焦がさないように飲んでいく。濃厚なコンソメ、オニオンの甘みが味蕾を刺激し陶然となる。器の形状、ナプキンの色が相まってか、骨髄を食べているような錯覚に陥ることもこの気持ちよさに寄与しているのかもしれない。

2皿目は真鱈と縮みホウレンソウの温菜。明るい色の皿とホウレンソウの緑が良い対照を生み、フレッシュな気分となる。鱈に利かせたハーブといい、器と料理が良く調和している。インパクトあるフードに挟まれた魚のデッシュは、一旦落ち着きを取り戻す印象がある。

次はクライマックスとなる主菜だ。その期待にたがわぬ料理が出て来る。なんと粘土の塊が登場!一体これは何?と思うかもしれないが、槌で粘土を叩き割る。そうすると中から和牛が出て来る。桑田が作品制作に使用している土でいわて短角牛を包み、粘土焼きにしたものだ。塊が載るゴールドの板皿ももちろん作品だ。

この技法は、『美味しんぼ』の究極VS至高のメニューにあったアワビ対決を思い出させる。山岡が子どもの砂場遊びから、塩の塊でアワビを包む蒸し焼き料理を思いつくのだ。食材の周りを隙間なく包める素材で蒸し焼きにすることで調味料が深く浸透し、より深い味となる。粘土に包まれているかといっても土は付いていないので安心してもらいたい。肉はしっとりと柔らかく、肉の味をしっかりと楽しめる。

最後は桑田の作品に見られるモチーフである、突起を思い起こさせる可憐な、まあるいシュークリーム。サクッとしたパイ生地に品の良い甘さのクリームが入り、軽快にコースを締めくくってくれる。ポップなトリコロールカラーの皿も可愛い。
以上メニュー4種とアートの饗宴だ。価格は税込み2万円(ドリンク別)。この試みを北大路魯山人、はたまた海原雄山が体験したらどんな感想を抱くか興味が尽きない。ちなみに料理を供するシェフ箱石和行は元ベルギーの2つ星レストラン「L'eau vive」でスーシェフを務めた腕前なので味は間違いない。いつもと違ったグルメを楽しみたかったらぜひ予約してみては?夜が難しい人は昼間のうどんもおススメだ。
【ディナーコース】
日時:火~金曜の19:00スタート ※完全予約制
価格:2万円(税込)
場所:展示スペース内

【桑田卓郎+くの作品で、うどん試食体験】
日時:火~金曜12:00~15:00(L.O 14:30)
価格:1200円(税込)
場所:レストラン客席
予約:不要

【桑田卓郎+くの作品で、うどんの試食体験 in ギャラリー】
日時:土曜12:00~20:00(L.O 19:00)/日曜12:00~18:00(L.O 17:00)
価格:1600円(税込)
場所:展示スペース内
予約:不要
桑田卓郎+く「窯上げうどん」
開催期間:1月25日(土) 〜3月16日(日)
会場:Gallery & Restaurant 舞台裏
住所:東京都港区虎ノ門5-8-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザA B1F
営業時間:ギャラリー11:00~20:00、レストラン12:00~15:00(L.O 14:30)、17:00~22:00(土曜は12:00~20:00、日曜は12:00~18:00、L.Oはいずれも1時間前)