ジャワ島沖の海底からホモ・エレクトスの頭蓋骨が出土。同時発見の動物の化石には解体された痕跡も
インドネシアのマドゥラ海峡での浚渫作業中に発見された36種の脊椎動物化石の中から、ホモ・エレクトスの頭蓋骨破片2つが見つかった。今回の発見により、先史時代の生態系とヒト族の生活様式についての新たな知見がもたらされた。

インドネシア・ジャワ島の北東に位置するマドゥラ海峡に人工島を建設するため、海底から浚われた堆積物の中に、現生人類の近縁種であるホモ・エレクトスの頭蓋骨の破片を含む36種の脊椎動物の化石が見つかった。この発見により、先史時代の生態系と、ホモ・エレクトスの位置づけに関する新たな知見が得られることとなる。
ホモ・エレクトスの化石はこれまでもジャワ島で発見されており、トリニール遺跡やサンギラン遺跡といったインドネシアを代表する遺跡から出土している。これまで研究者たちは、ホモ・エレクトスは地理的に孤立してジャワ島で生活していたと考えていたが、今回の発見により、海面が低下していた時期には、周辺のスンダランドと呼ばれる低地に居住していたことが明らかになった。
この地域には河川が縦横に流れ、広大な平原も広がっており、当時はジャワ島のような島々とアジア大陸は陸続きだったという。今回の調査によって、カメやカバをはじめとする水生生物が河川に生息していたほか、平原にはゾウに似たステゴドンや水牛といった巨大生物が生息していたことが明らかになった。
これらの動物の化石の一部には切り傷が見られ、ホモ・エレクトスによって解体、あるいは狩猟された痕跡であると考えられる。さらに、ホモ・エレクトスが成熟した水牛を狩り、骨を破壊して脊髄を摂取していた痕跡も残っている。しかし、このような食生活や狩猟方法は、これまでインドネシアの遺跡から発見された古代人には見られない特徴であり、海峡沿いに居住していた古代人の狩猟戦略は、大型動物を組織的に狩るという点で、アジア大陸の現生人類に近い行動様式を示しているという。レイデン大学の考古学者で、今回の調査を率いたハロルド・ベルグヒースはこう語る。
「マドゥラ海峡で生活していたホモ・エレクトスは、こうした狩猟戦略を独自に発達させた可能性があります。しかし、一種の文化交流が当時行われていたという可能性も捨てきれません」
人工島を建設するために引き上げられた砂と砂岩は500万立方メートルにも及ぶ。ベルグヒースは数週間にわたって化石を探していたといい、予定されていた調査期間の最終日にホモ・エレクトスの骨を見つけた。
「夕日を眺めようと腰を下ろしたとき、ふと目をやると、オランダで発見されたネアンデルタール人の遺骨に似ている何かが私の隣にあったのです」
その後ベルグヒースは、頭蓋骨の破片をホテルの部屋に持ち帰り、ネアンデルタール人の骨の画像と比較した。彼が砂の中から発見した頭蓋骨の眉骨は顕著に隆起しており、ネアンデルタール人をはじめとする他の古代人のものと類似していたのだ。ベルグヒースと彼の同僚はのちに、発見した骨は成人もしくは青年期のホモ・エレクトスのものだと判定した。
この化石は現在、インドネシア・バンドゥンの地質学博物館で展示されており、将来的に特別展示が開催される見通しだ。