ロンドン中心部で、初期人類の営みを物語る遺物が続々出土。重層する歴史の姿が次第に明らかに
ロンドンのウェストミンスター宮殿で現在進行中の発掘調査で、約6000年前の新石器時代の火打石や中世のブローチ、19世紀の巨大なビールジョッキなど、多様な遺物が発見された。

イギリス政府がロンドンのウェストミンスター宮殿で進めている発掘調査で、約6000年前の新石器時代の火打石や中世のブローチ、巨大なビールジョッキなど、多様な遺物が発見されたとアートネットが報じた。
この調査は、イギリス議会修復・更新事業局が主導し、ロンドン博物館考古学部門(MOLA)が実行している。現在、同宮殿では20年間で総額130億ポンド(約2兆7000億円)を投じる大規模修復事業が進行中で、その一環である考古学調査は3年間にわたって行われ、2026年に完了見込みだ。
ウェストミンスター宮殿は、かつてソーニー島と呼ばれた川の中の島に位置し、11世紀のノルマン王ウィリアム征服王の治世に王宮として整備が始まった。中世以降はイングランド王の主要な宮殿として政治の中心となったが、1834年の大火災で大部分が焼失。その後、ネオ・ゴシック様式で再建され、現在はイギリス議会の議事堂として使用されている。併設の時計塔(ビッグ・ベン)とともに、ロンドンを象徴する建築だ。
調査対象は、ブラック・ロッド庭園、ロイヤル・コート、スピーカーズ・コート、テムズ川沿いなど宮殿敷地内の主要9カ所。研究者たちは各地点に試掘坑やボーリング孔を戦略的に配置し、地層を精査した。そのなかでも特に注目されるのが、中石器時代後期から新石器時代初期(紀元前4300年頃)にかけての剥片石器や火打石など60点以上が出土したこと。ソーニー島周辺は、先史時代の共同体が漁労・狩猟・採集を行っていたと考えられており、今回の発見はロンドン中心部における初期人類の活動を示す貴重な証拠となる。
さらに、2000年前の古代ローマ時代の祭壇片や、14〜15世紀の結婚指輪や印章の意匠として盛んに用いられた花と心臓を組み合わせた図柄の鉛製バッジ、2008年までロンドンのリーデンホール地区に存在した酒場「シップ・アンド・タートル」で19世紀に使用されていた5パイント(2.84リットル)容量のビールジョッキ、19世紀のウェストミンスター宮殿再建で使用されたタイルの模範となった、中世の装飾床タイルなど、幅広い年代の遺物が多数見つかった。
現在進行中の調査と成果について、イギリス議会修復・更新事業局委員会議長で歴史家・考古学者としても知られるサイモン・サーリー博士は、BDC Magazine に次のように語っている。
「ウェストミンスター宮殿は1000年にわたり、我が国の歴史の中心的存在であり続けてきました。イギリスの歴史を形作った極めて重要な場所なのです。大規模な修復と更新を計画するにあたり、私たちは足元にある歴史を丁寧に扱い、保護し、そこから学ぶ必要があると考えました。2024年に開始された最初の試掘調査によって、すでに私たちが知らなかった、あるいは推測の域にあった事柄が明らかになりつつあります。これは魅力的で重要な発見の旅の始まりです」
これまでに調査チームは、中世の宮殿や後世の議会建造物、さらに19世紀の再建に伴う構造物の痕跡を発見し、記録したうえで埋め戻してきた。これら初期段階の成果は、この地に重層する歴史の全体像をより明確にする手がかりとなっている。
調査チームは今後、14カ所の試掘坑と10本の地質・考古学的ボーリング孔の掘削を進めながら、テムズ川沿岸の調査を行う。最終的な調査報告書は2027年に公表される見通しだ。







