ジャッキー・アメスキータがレンガ作品に込める「移民の歴史と再生への意思」【New Talent 2025】

US版ARTnewsの姉妹メディア、Art in America誌の「New Talent(新しい才能)」は、アメリカの新進作家を紹介する人気企画。2025年版で選ばれた20人のアーティストから、レンガを使い、移民の歴史や喪失と再生をテーマとする作品を生み出すジャッキー・アメスキータを紹介する。

ジャッキー・アメスキータ《The soil that feeds us》(2023) Photo: Joshua White/Courtesy Hammer Museum, Los Angeles
ジャッキー・アメスキータ《The soil that feeds us》(2023) Photo: Joshua White/Courtesy Hammer Museum, Los Angeles

この冬、ロサンゼルスにあるジャッキー・アメスキータのスタジオのテーブルには、いくつものレンガのサンプルが整然と並べられていた。以前の作品とは異なり、土とマサ・デ・マイズ(トウモロコシの生地)を混ぜたレンガ用の素材には、さまざまな植物由来の材料が加えられている。

その有機材料はバタフライピーの花やココア、コチニールカイガラムシ、木炭、ビーポーレン(ミツバチが作る花粉団子)、コーヒー豆、アナトー(ベニノキの色素)などで、これらを用いることで鮮やかな青や紫、深みのある黄土色や黒など、レンガはさまざまな色味に仕上がる。ロサンゼルスでこれほど多様な素材が簡単に手に入るのは、この街の移民の歴史と植民地主義の名残りを反映しているとアメスキータは言う。

アメスキータが作品に土を使うようになったのは、メキシコのティファナからロサンゼルスまで8日間かけて歩くパフォーマンスをしたことがきっかけだった。そのパフォーマンス中、彼女は水を飲み干すたびに空いたボトルに土を詰めていった。

旅が終わる頃、18本もの土のサンプルを手にした彼女は、それらはある種のアーカイブで、記憶が宿る場所だと思い始めた。もし土が言葉を話せるとしたら、何と言うだろう? どんな物語を共有してくれるのだろう? 当時の彼女はそのように考えていた。そうするうちに、神々が試行錯誤の末にトウモロコシを使って最初の人間を作ったというグアテマラに伝わるポポル・ヴフの創造神話を思い出したという。

レンガを作るときは、形を保つために粘土を凍らせてからオーブンで数時間焼く。途中で何度もレンガをひっくり返すが、その作業はトルティーヤを焼くのに似ているとアメスキータは説明する。また、水分が抜けたレンガを再びオーブンに入れて焼き固める前には、屋外に出して太陽の光を当てる。そのことを彼女はこう言った。

「太陽は作品に生命を吹き込み、いろいろなエネルギーを与えてくれるのです」

素材の配合を最適化するのに2年ほどかかった土とトウモロコシのレンガは、2023年のインスタレーション《El suelo que nos alimenta(私たちを養う土)》などの作品群に使われている。壁一面を覆うほど大きなこの作品は、その年に開催された「メイド・イン・L.A.ビエンナーレ」で展示するために、ロサンゼルスのハマー美術館から依頼を受けて制作された。作品を構成する144個の正方形のレンガは、ロサンゼルスのあちこちで採取された土で作られ、レンガごとに地域の特徴を表す絵が刻まれている。

ジャッキー・アメスキータ《Oro Negro (detail)》(2024) Photo: Courtesy Charlie James Gallery, Los Angeles
ジャッキー・アメスキータ《Oro Negro (detail)》(2024) Photo: Courtesy Charlie James Gallery, Los Angeles

レンガを使った作品は移民の歴史を思い起こさせる。そして、それが作品の中心的なテーマとなっているのは、彼女自身の家族の歴史と重なるからでもある。アメスキータは、1987年にロサンゼルスに来た母親を追って、2003年にグアテマラから移住した。彼女の祖母も、1920年代後半のクリステロ戦争(*1)の最中にメキシコからグアテマラへと移住しており、その途中で重要な文書などを失ってしまったという。

*1 カトリックの聖職者に対するメキシコ政府の弾圧への抵抗運動・反乱。

「祖母は灰の中から再出発しなければなりませんでした」と述懐するアメスキータは、逆境に負けなかった祖母の強さに触発され、こう考えるようになったと付け加えた。

「消されてしまった歴史の柱をどうやったら再構築できるのか。残された断片をどう理解し、つなぎ合わせることができるのだろうか」

こうした問題意識から、彼女は作品に木炭や灰を取り入れるようになった。それはちょうど、今年1月の山火事によってロサンゼルスで複数の地区が消失し、友人の多くが深刻な被害を受ける直前だった。彼女は今、これらの素材を再生のメタファーとして捉えている。

「私たちはなんとか踏ん張っていますし、希望を失っていません。消されてしまったもの、破壊されてしまったものを使って、何かを生み出すことができるのです」

(翻訳:野澤朋代)

from ARTnews

あわせて読みたい