豪ガス田の稼働延長でペトログリフ100万点に損傷の懸念。考古学者は「深刻な危機」と警鐘

オーストラリア政府は5月28日、西オーストラリア州のノース・ウェスト・シェルフ・ガス田の稼働期間を2070年まで延長することを条件付きで承認した。ガス田に隣接するムルジュガ地域には、先住民が制作した約100万点のペトログリフが存在しており、線もかは、ガス田から排出される汚染物質により世界最古級の岩絵群が危機に晒されると懸念を示している。

ウッドサイド・エナジーがノース・ウェスト・シェルフで運営するガス田。Photo: Greg Wood/AFP via Getty Images
ウッドサイド・エナジーがノース・ウェスト・シェルフで運営するガス田。Photo: Greg Wood/AFP via Getty Images

オーストラリアの先住民が5万年前に作ったとされるロックアートの近くにある液化天然ガス採掘場の稼働期間を延長すると、オーストラリア政府はこのほど発表した。これを受け考古学者は、作品への損傷が拡大すると警鐘を鳴らしている。

オーストラリアの環境大臣であるマレー・ワットは、エネルギー企業のウッドサイド・エナジーがノース・ウェスト・シェルフで運営するガス田の稼働期間を2070年まで延長する要請を5月28日に条件付きで承認している。ロイター通信の報道によれば、この承認は「遅延や異議申し立て、環境団体の反発が相次いだ」なか6年間に及んだ審査を経たもので、同事業の採掘許可は2030年に切れる予定だったという。5月3日に総選挙を控えていたオーストラリア政府は、この承認の判断を2度延期していた。

ノース・ウェスト・シェルフのガス田は西オーストラリア州北部のバーラップ半島(ムルジュガとも呼ばれる)に位置しており、100万点のペトログリフが存在すると推定されている。

西オーストラリア大学の考古学教授、ベンジャミン・スミスによれば、この遺跡には世界で初めて描かれた人の顔が残されており、ムルジュガは世界でも稀な規模のペトログリフ群が存在する場所であると指摘している。

「ヨーロッパで最も古い岩絵は約3万4000年前までさかのぼります」と、スミスはアート・ニュースペーパーに説明した。また、ガス田の稼働延長による汚染物質が、すべてのペトログリフを「深刻な危機」に晒すと指摘した。

ロイター通信はまた、事業延長の承認は大気排出レベルの影響に関して厳格な条件が付されていると述べ、ムルジュガの岩絵への排出物の影響は政府の審査過程で検討されたと報じている。

「採掘許可の延長を決定する際、私は、岩絵の保護を中心に据えています」と語るワットは、事業延長要請に対する最終承認を下す前に、大気環境と文化遺産管理に関する非公開の詳細条件をウッドサイド・エナジーに提示しなければならない。また同社は、10日以内にこれに対する回答を行う必要がある。

一方で考古学者のスミスは、提示された条件の詳細が明らかになるまで、アンソニー・アルバニージー首相が率いる労働党政権に「圧力をかけ続ける」とアート・ニュースペーパーに語り、こう続ける。

「政府がウッドサイド・エナジーに提示した条件が、厳格であることを私は望んでいます。また、ガスの採掘作業によって岩絵が損傷されないことを明確化しなければなりません。条件が国民に開示される時点では、もう手遅れでしょう」

2023年には、ガス田がムルジュガの岩絵に及ぼす影響を懸念した環境活動家が、パースの西オーストラリア美術館で、フレデリック・マッカビンの絵画にウッドサイド・エナジーのロゴをスプレーで描く抗議活動を行った。活動家のひとりであるジョアナ・ヴェロニカ・パルティカは、絵画を損傷した罪で有罪判決を受けたが、捜査当局への電子データ提出を拒否したことで裁判が続いていた。最終的にパルティカの有罪判決は維持され、証拠引き渡し拒否による有罪の取り消しを求めた彼女の訴えも棄却された。(翻訳:編集部)

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