死海文書の新事実がAI技術で明らかに! 専門家は将来の実用化に期待
写本に関する近代最大の発見と言われている「死海文書」。その解読が進められる中、オランダ・フローニンゲン大学の研究者たちはAIと炭素年代測定の2つのツールを使った調査により、新事実を明らかにした。

オランダ・フローニンゲン大学の研究者たちが、AIと炭素年代測定の2パターンで死海文書の調査を実施したところ、一部の文書が従来考えられていたよりも50年から100年も古い紀元前2~3世紀に遡るものであることがわかった。6月4日に研究者たちが学術誌PLOS Oneに発表した。
死海文書は1946年から47年にかけて、死海の西岸にあるクムランの洞窟で、ベドウィン族の羊飼い3人が偶然見つけた洞窟のいくつかの壺に収められていた。現在では11の洞窟から900巻前後が見つかっており、断片の総数は10万枚に上る。文書は紀元前3世紀から紀元1世紀にかけてのもので、エッセネ派と呼ばれるユダヤ教の宗派の信徒たちによって書き写されたと考えられている。文書はエステル記を除くヘブライ語聖書の全ての写本が含まれており、いずれもユダヤ教の信仰にとって極めて重要なものであり、ユダヤ教から派生したキリスト教にとっても貴重な史料となる。
だが羊皮紙やパピルスに記された文書は経年劣化が激しい上に、1950年代に文書を読みやすくしようとヒマシ油を塗ったために歪みが生じている。さらにこれが、放射性炭素測定装置にかけたとしても混乱を生じて正しい結果が導き出されないという弊害をもたらしていた。
主任研究者でフローニンゲン大学教授のムラデン・ポポヴィッチと彼のチームは、24点の写本サンプルを洗浄してから再度炭素年代測定を行った。そして彼らは、旧約聖書の『創世記』に登場する人物で、ヘブライ語で「従う者」という意味の「エノク」と名付けたAIモデルを訓練し、文書全体のインクパターンを分析させた。テストの結果、エノクは85パーセントの確率で炭素測定結果と一致する年代を算出した。
この調査に対して、一部の学者は慎重な姿勢だ。結局のところ、放射性炭素測定は羊皮紙の年代だけを測定するものであり、AIモデルも他の機械と同様、投入されるデータの質によって精度が変わるからだ。
だが懐疑派の専門家たちでさえ、AI技術がこれらの文書がどこで、いつ作成されたかの再評価を迫る可能性があることを認めている。実際、エノクが生まれたことで、従来の放射性炭素年代測定による物体の成分抽出を行うことなしに、約1000点の死海文書の年代測定を50年刻みで行うことが可能になった。研究者たちは現在、古文書学者の協力を得ながら135点の写本の二値化画像をエノクに投入し年代推定する最初のステップを踏み出している。
ケンタッキー大学コンピュータサイエンス学部の名誉教授であるブレン・シールズは、CNNの取材に対して、研究者たちが採用したAIによるアプローチはサンプルサイズが小さいにもかかわらず、厳密なものであると述べた。だが、「AIを炭素年代測定の完全な代替手段として用いることは、まだ時期尚早かもしれません」としつつ、以下のように語った。
「機械学習のあらゆるものと同様、良いワインのように、時間とサンプルの増加と共に改善されるはずです。古代写本の年代測定は、データが希薄で、アクセスと専門知識に制約が厳しい極めて困難な問題です。最新技術を駆使し、この問題に大きな一歩を踏み出したチームに拍手を送ります」(翻訳:編集部)
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