炭化した2000年前の巻物の著者と題名が判明! 大学生らがAI解析を駆使した成果に学者もびっくり
古代都市ヘルクラネウムの遺跡から発掘された焼け焦げたパピルス文書の1つが、研究者たちによってエピクロス派哲学者フィロデモスによる『悪徳について』の一部であることが特定された。これはヴェスヴィオ・チャレンジと題されたコンペの一環であり、タイトルと著者の判読に成功した研究者たちには、約860万円の賞金が贈られた。

2000年にわたり内容が判明していなかった古代ローマ時代の焼け焦げた巻物が、エピクロス派の哲学者、フィロデモスの著書『On Vices(悪徳について)』の一部であることが、研究者によって特定された。
古代ローマの町ヘルクラネウムは、79年にヴェスヴィオ火山が噴火した際に火山灰に埋もれた。その地には、ユリウス・カエサルの義父であるルキウス・カルプルニウス・ピソ・カエソニヌスが所有した大規模な図書館「パピルス荘」があり、同館から発見された、炭化した1785点のパピルス文書には古代ギリシャとローマの名高い学者たちが記した重要な哲学書や文学書が含まれていると考えられている。
この炭化したパピルス文書の研究は現在も進められており、巻物を人工知能(AI)技術で解読することを目的とした国際コンテスト、ヴェスヴィオ・チャレンジが、研究の進展を促す取り組みとして開催されている。優れた成果を挙げた研究チームには賞金が授与される。
研究者は、オックスフォード大学のボドリアン図書館に所蔵されている3点の炭化した巻物のうちの1つにX線撮影を実施し、スキャンされたデータをもとに3次元画像へ再構成した。その後、この再構成モデルをAIで分析し、X線画像に写るインクの痕跡を解析することで、巻物の著者とタイトルを特定することに成功した。古代文書の解読に携わっているユニバーシティ・カレッジ・ロンドンでパピルス学を研究する、マイケル・マクオスカーは、ガーディアン紙に次のように語る。
「AIによる解析でインクが検出されたのは今回が初めてです。それまでは、この文書に文字が書かれているのかどうかさえ分かっていませんでした。この分野における技術は、全て過去3〜5年の間に発展してきたもので、私たちのような古典学者にとってはめざましい速度に感じます」
この巻物は、2024年にオックスフォードシャーにある国立研究施設、ダイヤモンド・ライト・ソースに設置されたシンクロトロン(円形加速器)でスキャンされ、今年初頭に巻物からいくつかの単語が読み取られている。
今回巻物のタイトルと著者を特定したのは、ヴェスヴィオ・チャレンジ研究者のショーン・ジョンソンと、ユリウス・マクシミリアン大学ヴュルツブルクのマルセル・ロスおよびミハ・ノヴァク。彼らにはタイトルを解析したチームに与えられる「First Title Prize」と、その賞金6万ドル(約860万円)が授与された。
『悪徳について』は傲慢、へつらい、貪欲、家庭管理などをタイトルとした全10巻以上あることが知られているが、今回の巻物はその第1巻であると考えられている。
今年3月には、イギリスのダイヤモンド・ライト・ソースで18の「パピルス荘」の巻物がスキャンされており、フランス・グルノーブルの欧州放射光施設では、さらに20の古代文書がデジタル化される予定だという。(翻訳:編集部)
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