ディズニーやマーベルなど6社がMidjourneyを著作権侵害で提訴。生成AIは「盗作の底なし沼」
ウォルト・ディズニーやユニバーサルなどエンタメ大手6社が、画像生成AI「Midjourney」を運営する企業を著作権侵害で提訴した。ダース・ベイダーやシュレックなど人気キャラクターを無許可で生成できる状況を原告側はMidjourneyを激しく非難している。

大手エンタメ企業とビッグテックの戦いは新たな局面に突入した。ウォルト・ディズニーやユニバーサルをはじめとするエンタメ大手は、生成AI企業、Midjourneyによって出力される画像が著作権を侵害しているとする訴状をロサンゼルスの連邦地方裁判所に提出した。この訴訟の争点は、Midjourneyが著作権で保護されたキャラクターの画像を無許可で生成していることにある。
ディズニー・エンタープライゼス、マーベル、ルーカスフィルム、20世紀スタジオ、ユニバーサル・シティ・スタジオ・プロダクションズ、ドリームワークス・アニメーションが連名で提出した訴状には、デヴィッド・ホルツが運営する生成AI企業、Midjourneyが「盗作の底なし沼」であると記されている。
今回の訴訟は、ハリウッドがビッグテックを相手取って行われる本格的な法廷闘争だ。Midjourneyのような企業は、インターネット上で公開されているデータを吸い上げ、プロンプトを通して画像や文章を出力するAIを手がけてきた。これにより、ユーザーに合わせたエンターテインメントや情報をそれぞれ提供し、私たちの生活を根底から変えようとしている。現状、金融専門家たちは経済がAIによってけん引される未来に賭けており、AIを開発するテック企業は彼らのビジョンを実現するため、巨額な資金を調達してきた。
しかし、大手制作会社は、自社の知的財産をAIツールにライセンス供与していない。一方、OpenAIなどとライセンス契約を結ぶ道を選択した大手メディア企業も多く、制作会社とメディア企業では対応が分かれている(ちなみにニューヨーク・タイムズ紙はこれまでOpenAIとの裁判に1000万ドル[約14億円]以上費やしている)。
6社の制作会社からなる原告が提出した訴状によれば、Midjourneyはディズニーとユニバーサルの知的財産をもとにユーザーが画像を簡単に生成できる仕組みを提供していると指摘。一例として、著作権で保護されたキャラクターがさまざまなシチュエーションで描かれた画像が生成されていることを挙げている。こうしたコンテンツは一般的に「AIスロップ」(*1)と呼ばれるが、このようなコンテンツを目にしたことがある人もいるだろう。訴状には次のように記されている。
*1 AIが生成した質の低いコンテンツ
「Midjourneyの利用者が、ダース・ベイダーに特定の場面で何らかの行動をさせているプロンプトを入力すると、この生成AIは、ディズニーが著作権をもつダース・ベイダーを使った高品質かつダウンロード可能な画像を生成し、ユーザーに提供している」
また、著作権侵害の証拠として、Midjourneyによって生成されたダース・ベイダーやストームトルーパー、ピクサー作品に登場するウォーリー、映画『ヒックとドラゴン』のキャラクター、ミニオンズ、シュレックなど多数のAI生成画像が提示されている。これ以外にも、スター・ウォーズのキャラクターであるヨーダの画像をいくつか並べ、綿密に比較している。
原告はさらに、Midjourneyがこうした画像を出力できるのは、著作権で保護された知的財産を学習データとしてすでに取り込んでいるからだと主張しており、訴状はこう続く。
「Midjourneyは、ボットやスクレイパー、ウェブクローラーといった自動収集プログラムを使って、インターネット上の動画や画像を大量にダウンロードしている。また、MidjourneyのCEOであるデヴィッド・ホルツは『入手できるあらゆるデータやテキスト、画像を取り込んでいる』ことを過去に認めている」
また、Midjourneyが知的財産のデジタルデータを「クリーニング」(*2)して学習データに変換したことで、ユーザーが入力したプロンプト通りにキャラクターの画像を作成できるようになったとして、訴状には次のように記されている。
*2 データクリーニング。訓練データなどに含まれる不正確なデータを削除したり、重複を減らすことで分析用のデータを準備すること
「利用者がスパイダーマンやミニオンズ、アイアンマンをはじめとする原告側が著作権をもつキャラクターの画像を求めるプロンプトを入力すると、Midjourneyはこれらを複製し、公開、あるいはダウンロード可能な画像を配布している」
提出された訴状ではさらに、Midjourneyはディズニーとユニバーサルが著作権をもつキャラクターをもとに画像の生成を可能にしているだけでなく、Midjourneyのサイト上にある「Explore」セクションに表示させていると強調。原告側は、MidjourneyがAIの機能を完全に把握した上で盗作を利用して利益を得ていると非難している。
「MidjourneyがExploreページで著作権侵害画像を公開し、キュレーションしていることは、同社が自社プラットフォームで原告の著作権作品を定期的に複製していることを認識しており、Exploreページが著作権作品を侵害する能力を宣伝することを意図していることを示している」
Midjourneyには著作権を侵害するような画像の出力を防ぐ機能が搭載されているにもかかわらず、それが実現していないことも訴状のなかでは指摘されており、制作会社側はこう続けている。
「この生成AIには、生成されるコンテンツを技術的に制御する機能が備わっており、実装されているはずだ。にもかかわらず、Midjourneyは著作権侵害を制限するための保護措置をあえて使用していない」
ディズニーの法務顧問、ホラシオ・グティエレスは訴状に「これは紛れもない盗作行為だ」と記している。制作会社が起こした今回の訴訟は、全米映画協会(MPA)が従来行ってきた海賊行為撲滅の取り組みと類似している。しかし、これまでMPAは主に違法配信サイトを標的としており、AI企業への本格的な法的措置は今回が初めてとなる。
グティエレスは訴状でさらに次のように述べている。
「私たちが保有している世界トップクラスの知的財産は、数十年に及ぶ投資、創造性、イノベーションの上に築かれている。これらの投資は、著作権法が創作者に与える独占的利益の権利に支えられて初めて実現できたものだ。私たちはAIという技術がもつ可能性を強く信じていると同時に、人間の創造性を高めるツールとして節度をもって活用されると楽観的に考えている。だが、こうした行為は紛れもない盗作行為であり、たとえそれが企業によって行われたからといって、侵害という事実が覆されるわけではない」(翻訳:編集部)
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