映像、音、パフォーマンス・アートの新施設がNYに来年オープン。時間をかけて体験する作品のための場

ニューヨークで、映像や音、パフォーマンスなどに特化した新しいアートスペースが、2026年のオープンに向けて準備を進めている。「リビングルームのようにくつろげる場」を目指すこのスペースでは、日本人アーティスト、池田亮司の回顧展も計画されている。

ニューヨークの建築・デザイン事務所、ニュー・アフィリエイツがリニューアルを手がけるキャニオンの完成予想図。建物内には作品の展示イメージが描かれている。Photo: Courtesy of the artists and CANYON, © New Affiliates

ビデオ・アートサウンド・アートパフォーマンス・アートに焦点を当てた新しいアート施設「キャニオン(Canyon)」が、2026年にマンハッタンのロウアー・イーストサイドにオープンする。ウィリアムズバーグ・ブリッジの近くで長らく空き店舗となっていた商業スペースを利用したもので、約3700平方メートルの広さがある。

プロジェクトの発案者は、慈善家でアートコレクターのロバート・ローゼンクランツと、マサチューセッツ現代美術館(MASS MoCA)の創設ディレクター、ジョー・トンプソン。ローゼンクランツが言うところの「ベンチャーフィランソロピー」として創設され、彼の財団が1000万ドル(約14億5000万円)のリノベーション費用を負担。1000万ドルの年間運営予算への援助も行う。

2人によると、キャニオンは通りがかりにちょっと足を止めて見るのではなく、時間をかけて体験するような作品のための場だという。ディレクターを務めるトンプソンは、作品に囲まれることが自然で楽しいと感じられるようにするのが目標だとして、US版ARTnewsのメール取材にこう答えた。

「人は、夜にある程度の時間をかけてゆっくり楽しみたいと思うものです。たとえばコンサートや映画に行ったり、友人とのんびり食事をしたり。ですから、キャニオンで時間を過ごしてもらうために、そっけない白い箱のようなスペースではなく、リビングルームのようなしつらえのギャラリーにして、飲み物を置く場所もある居心地のいい場所にしたいと考えました」

リノベーションはニューヨークを拠点とする建築・デザイン事務所のニュー・アフィリエイツが手がけ、約930平方メートルの展示スペースのほか、パフォーマンスや人の集まるイベントに使われる高さ約18メートルのエリアが設けられる。300席のパフォーマンス専用ホールでは、コンサートや上映会、講演会、ポッドキャストの収録なども行う。

展示は年3回ペースで入れ替わり、現時点では日本人サウンドアーティスト、池田亮司の回顧展や、著名キュレーターのハンス・ウルリッヒ・オブリストが企画したビデオゲームと現代アートのグループ展「Worldbuilding(ワールドビルディング)」の拡大版などが予定されている。

オブリストはキャニオンを「単なる新しい文化施設ではなく、アートのための新しいタイムゾーン」と表現し、「時間をかけて没頭し、内省するための空間として待ち望まれていたもの」だと評している。「Worldbuilding」展は、ビデオ・アートを中心としたアートコレクションで知られるユリア・シュトーシェックの財団が所有する展示スペースで2022年に初公開された展示。オブリストは、集団的なタイムベースト・アート(*1)の体験を重視するキャニオンが実験的な試みを支えてくれることで、本展はより進化するだろうと付け加えている。

*1 ビデオ、スライド、フィルム、サウンド、パフォーマンスなど、鑑賞が時間的に展開するメディアによるアート。

キャニオンはまた、独自の道を追求するアーティストとの出会いを提供することも目標としている。メキシコシティで毎年行われるタイムベースト・アートのフェスティバル「TONO」の創設者で、最近キャニオンのキュレーターに就任したサム・オゼルはこう語る。

「ビデオは今や、コミュニケーションの主要な手段になりました。パフォーマンスやサウンド、ムービングイメージを扱うアーティストたちは、何かを伝え、また受け取るための新しい形を試みています。キャニオンは、こうした作品の複雑さをサポートし、観客がそれらをどう体験できるかを再考するよう設計されています」

こうした没入型プログラムに加え、エレクトロニック・アーツ・インターミックス、ライゾーム、アーカイブ・オブ・コンテンポラリー・ミュージックなど、作品のアーカイブを所有する団体がキャニオンと組み、長期パートナーとして協力を行う。

キャニオンの入場料は一般30ドル(約4400円)になる予定だが、これは、アメリカで最も入場料の高い美術館の1つであるニューヨーク近代美術館(MoMA)の一般入場料と同額だ。ただし、学校団体や図書館の利用者カード保有者は無料で利用できる。(翻訳:石井佳子)

from ARTnews

あわせて読みたい