オスカー・ムリーリョが見出した才能──混沌と静けさを行き来するリバス・カの抽象画【New Talent 2025】

US版ARTnewsの姉妹メディア、Art in America誌の「New Talent(新しい才能)」は、アメリカの新進作家を紹介する人気企画。2025年版で選ばれた20人のアーティストから、著名作家に才能を見出され、独創的な絵画手法で急速に頭角を表した新星、リバス・カを紹介する。

リバス・カ 左:《無題》(2023)、右:《無題》(2024) Photo: Damian Griffiths / ©Libasse Ka / Courtesy Carlos/Ishikawa, London
リバス・カ 左:《無題》(2023)、右:《無題》(2024) Photo: Damian Griffiths / ©Libasse Ka / Courtesy Carlos/Ishikawa, London

リバス・カの絵には、絵画の本質的問題に対する独創的な解決法が示されている。その一例が、傘のシルエットが描かれた2025年の無題の作品だ。彼はまず、新聞紙に傘の絵を描き、それをカンバスの表面に押し付けてイメージを転写し、新聞紙は捨ててしまう。ブリュッセルのスタジオを訪ねたとき、傘をカンバスにそのまま描くのは「あまりに直接的過ぎるから」とカは説明した。

淡い色調で塗られた作品群はほぼ抽象と言えるもので、傘や車、ハンマーを振り回す人間のシルエットなど、それと認識できる形と自由な筆致との間を揺れ動いている。サイズもさまざまだが、最近は大型のカンバスを用いることが多い。

その型破りなアプローチは、彼の受けた美術教育とは正反対のものだ。カは2010年にセネガルからベルギーに移住し、2019年にブリュッセルのラ・カンブル国立高等視覚芸術学校に入学した。しかし、保守的で硬直した教育方針に馴染めず、わずか数カ月で退学している。

電器店で働いていた2023年、店でコロンビア人アーティストのオスカー・ムリーリョと出会ったことから、彼のアーティスト人生は思わぬ方向へ動き出す。ムリーリョは、カが携帯電話の画面で見せた絵の画像から即座に才能を見抜き、フルタイムで絵を描くための支援を申し出た。電器店での仕事を辞め、制作に励めるようになったカはさらに、ムリーリョを通してロンドンのカルロス/イシカワ・ギャラリーの共同創設者、ヴァネッサ・カルロスを知る。

とんとん拍子で同ギャラリーへの所属が決まると、間もなく彼の作品は世界各地で展示されるようになり、2024年10月のアート・バーゼル・パリでは、カルロス/イシカワがカのソロブースを出展した。そして今年、美術館での初個展がベルギーのドント・ダーネンス美術館で予定されている。

リバス・カ《無題》(2024) Photo Damian Griffiths/©Libasse Ka/Courtesy Carlos/Ishikawa, London
リバス・カ《無題》(2024) Photo Damian Griffiths/©Libasse Ka/Courtesy Carlos/Ishikawa, London

ブリュッセルにあるカの住居兼スタジオは、壁も床も作品やアートブックでぎっしり埋まっている。影響を受けたアーティストのことを聞きながらメモを取ろうとすると、カは話すのをためらうような素振りを見せた。

「誰かの二番煎じのように思われたくないんです」と話す彼には、確かにサイ・トゥオンブリージャン=ミシェル・バスキア、ジグマー・ポルケなどの影響が感じられなくもない。ただ、カの作品は単にそうした要素を混ぜ合わせただけのものにとどまらない。そこにあるのは、予期せぬ新しい何かが生まれ出る、混沌としながらも豊穣な空間だ。

スタジオは、灰色とベージュの濃淡で埋められた大きなカンバスでいっぱいだった。しかし、その控えめな色調にもかかわらず、それぞれのカンバスには豊かで多様な筆の跡やテクスチャーが見られる。カは、黄色いべたべたした汚れのようなものがある絵を指差して「ニスです」と言い、触ってみるよう促した。すると、作品に手を触れた私の中に、抑えきれない感動が湧き上がった。そこには明らかに手触りがあり、作品は触れられることを願っているかのようだった。

床一面に広げられたドローイングのシリーズは、カの思考をさらに深く理解する手がかりを与えてくれた。あるスケッチにはドラゴンを槍で貫く騎士が描かれ、よく見ると余白には小さなカメラマンがいる。

「見方が変わるでしょう?」と、笑いを含んだ声でカは言った。「単なる戦いの場面が、突然、映画の撮影セットになるんです」

こうした微妙な知覚の混乱は、カの絵画にも存在する。彼は、どこにでもカメラが存在する現代人の暮らしをさりげなく表現し、荒削りでいながら整然とした描写を提示する。それは、ソーシャルメディアを次々スクロールするのとは対照的かつ新鮮な体験だ。(翻訳:清水玲奈)

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