アイ・ウェイウェイがウクライナで新作を発表。「戦争と平和についての対話を促す場に」

2025年9月、アイ・ウェイウェイウクライナの首都キーウで新作を発表する。アイは同作を通して様々な側面から「戦争と平和」について考えることを促す。

アイ・ウェイウェイ。Photo: Adam Simons/Courtesy RIBBON International

ロシアウクライナの紛争は、今も停戦の糸口が見えない。そんな中、現代美術家のアイ・ウェイウェイはウクライナの首都キーウで新作を展示すると発表した。

展示は9月14日から11月30日まで、キーウにある旧ソ連時代の建造物を利用したスペース、パビリオン13で行われる。新作のタイトルは《完全に調和のとれた三つの球体と白く塗られた迷彩服》(2025)。アイの発表によると、初期のシリーズ「神聖比例(ディヴィーナ・プロポルツィオーネ)」(2004-12)を基にしているという。同シリーズはレオナルド・ダ・ヴィンチの数学的図解からインスピレーションを得た、木製の球状二十面体からなる作品。中でも2006年に制作されたものは中国産の高級木材である黄花梨が使われ、1つはロサンゼルス郡立美術館(LACMA)が所蔵し、もう1つは2022年にオークションに出品された。

キーウで発表する新作は計3点の金属製で、球体は迷彩柄の布で覆われてボタンで固定される。迷彩生地はアイと彼のチームが保護し育てる猫たちから着想を得たパターンを使用しているという。その理由について、アイは声明で次のように語る

「これらの猫は私たちと共に何年も暮らしてきました。戦争時、動物は最も大きな被害を受けて最初の犠牲者となるのに、彼らは頻繁に無視されるのです」

また、迷彩生地を白いペンキで何層にも塗り重ねたことについて、アイはこう説明する。

「もちろん何かを覆うときは、その下に何かが残っていることを意味します。この行為を通して、私は現実とどう向き合うか、現実のどの層と向き合っているかということに特別な意味を与えています。現実とは、我々が見ているものなのでしょうか、それとも我々が理解しているものなのでしょうか」

今回の展示は、地元ウクライナの芸術を支援する非営利団体リボン・インターナショナルによって委託された。アイは展覧会を発表する声明の中で、「この時代において、戦争中の国の首都であるキーウでの展覧会開催に招かれたことで、私は自分の作品を通してある種の考えや省察を表現したいと願っています。私の芸術作品は単なる美的表現ではなく、巨大な政治的変動、国際的覇権、そして紛争を渡り歩く個人としての私の立場の反映でもあるのです。展覧会はこうした思いを明確に表現するためのプラットフォームであり、戦争と平和、合理性と非合理性についての対話の場なのです」と語った。そして芸術の役割について、「我々が理解できる以上に深遠なものであり、人類を独裁的な官僚制から救う唯一の方法だと私は思う」と付け加えた

アイは現在、シアトル美術館で回顧展「アイ、反逆者:アイ・ウェイウェイの芸術と活動」を開催中だ。同展について、アート・イン・アメリカの批評家ルイス・ベリーは評論で、「近年の政治的な題材を扱う芸術のリベラル・パラダイムに鏡を突きつけ、無意識のうちにそれらの象徴性が一部代償的であり、人々が感じる無力感のはけ口を提供しているに過ぎないことを示唆している」と書いた

アメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)が今年6月に発表した推計によると、ロシアによるウクライナへの全面侵攻が2022年2月24日に開始されて以来生じたウクライナ側の死傷者は約40万人、ロシア側は100万人に上る。(翻訳:編集部)

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