音楽のように絵画を奏でる──フェイ・ウェイ・ウェイの詩的で情感豊かな作品世界【New Talent 2025】
US版ARTnewsの姉妹メディア、Art in America誌の「New Talent(新しい才能)」は、アメリカの新進作家を紹介する人気企画。2025年版で選ばれた20人のアーティストから、繊細で詩的な具象絵画で、音楽のように感情を揺さぶるフェイ・ウェイ・ウェイを紹介する。

ロンドンのスレード美術学校を2016年に卒業したフェイ・ウェイ・ウェイは、幻想的で繊細な具象絵画ですぐに頭角を現した。そのインスタグラムには、ハートや恋人、花、リボン、ロザリオなどのモチーフがちりばめられた自己イメージとロマンチックな世界観が展開されている。彼女は外部の評価を恐れることなく、ファンタジー画家とでも言うべきアーティスト像を打ち出しているのだ。
ウェイ・ウェイはニューヨークのシチュエーションズとウィーンのガレリー・カンドルホファーでの個展で注目されたのち、変化を求めて2024年にイェール大学の修士課程に入学した。最近、大学のあるコネティカット州ニューヘイブンのスタジオを訪れると、床いっぱいに開いたままの本やイメージの参考資料が広げられ、半分に割れて柔らかい詰め物がはみ出た野球のボール、架空の都市の粘土模型、人形のベッドなど、インスピレーション源になるようなさまざまな物がところ狭しと並んでいた。
ウェイ・ウェイは、「散らかしているわけでもないし、邪魔になっているわけでもありません。そこを歩き回るためにあるんです」と説明する。その乱雑さは、即興や変容への入り口なのだ。
近作の《Calcium Stars (severed romanesque ears)(カルシウム・スターズ[切断されたロマネスクの耳])》(2024)では、服を脱いでいたずらっぽく横たわり、恍惚と恐怖の狭間のどこか曖昧な状態にある人物と、その上に浮かぶ3つの耳から紙吹雪が吹き出ている様子が描かれている。ロマネスク彫刻をスケッチしたような耳は、ウェイ・ウェイの詩的な想像力の中では、ひそかにささやかれている秘密への誘いだ。
「建築のような生き物、単なる物ではなく空間として存在する形が好き」だとウェイ・ウェイは言い、この耳はウォン・カーウァイ監督の映画『花様年華』(2000)のワンシーンを参照していると付け加えた。「(映画の中で)木の幹に穴を開けて、そこに秘密をささやく場面があります。物語の中で、隠されたメッセージがモチーフになっているのが大好きなんです」
《A Telescope Made of Champagne Glass(シャンパングラスでできた望遠鏡)》(2024)には、鮮やかなオレンジ色の平面と、そこに浮かぶレースでできたような小さな建築物に囲まれて横たわる人物が描かれている。「この作品では、スポンジを使ってテクスチャーの実験をしています。私は絵の具を、音楽のように独自の価値を持つ物質として捉えています。それは深い感情をもたらしてくれるのです」

ウェイ・ウェイの作品は、生き生きとしたスタッカートの音符やなめらかなレガートの旋律のような、音楽的なエネルギーに満ちた表情豊かな筆遣いにあふれている。「音楽には反復進行や楽章のような構造があります。絵画もそれを反映できると思うのです」と説明する彼女の《A Theatre on the Moon(月面の劇場)》(2024)では、流れるような長いストロークがトランペットのベルの上で渦を巻き、嵐を起こす。それはまるで楽器の内部空間を掘り起こすかのように、カンバス上で音のエネルギーを活性化させている。
ウェイ・ウェイの作品を見ていると、戸惑いと感動が同時に湧いてくる。楽器を演奏する演奏者の視点と、ステージ上で行われるその演奏を鑑賞する聴衆の視点に同時に包み込まれる感覚だ。そのようにしてウェイ・ウェイのスタイルは、まるで音楽のように、絵を描く身体の動きが感情を刺激する多元的な世界を呼び起こす。そこで奏でられるのは、ストイックだったりメロドラマ的だったり、気まぐれだったりメランコリックだったり、古めかしかったりフレッシュでモダンだったりするさまざまな感情だ。(翻訳:清水玲奈)
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