イングランド銀行が新紙幣のデザインを募集中! 50年ぶりの刷新に向けて市民に呼びかけ
およそ半世紀ぶりの紙幣刷新に向け、イングランド銀行が裏面デザインの公募を開始した。芸術やスポーツ、建築など多彩なテーマが候補に挙がっており、市民の創造力に期待が寄せられている。

イングランド銀行が発行する紙幣のデザインが、50年以上ぶりにリニューアルされることが発表された。紙幣の表に描かれている君主の肖像画は引き続き採用されるが、裏面に描かれている肖像やデザインについて、国民からの提案を歓迎すると同行は述べており、芸術や自然、スポーツ、歴史的な出来事、建築名所など、幅広い分野が対象となるという。
紙幣の裏面には、ウィリアム・シェイクスピアを皮切りに1970年から偉人の肖像が描かれるようになった。これ以外にも、チャールズ・ダーウィンやジェーン・オースティン、アラン・チューリングといった人物も、これまで紙幣の裏面に登場してきた。今回、イングランド銀行が提案する候補には、芸術やスポーツ、食といった文化的テーマのほか、城や建築物といったランドマーク、動物や景観も含まれている。今回の発表に際してイングランド銀行の主任出納係を務めるヴィクトリア・クリーンランドは次のように述べた。
「紙幣は単なる支払い手段以上に、わたしたちの集合的な国民的アイデンティティの象徴的表現であり、我が国の魅力を表現する機会なのです。国民のみなさんが、紙幣にどういったものが描かれるべきか、ぜひ声を聞いてみたいと思います」
紙幣デザインに芸術家が関わった歴史的事例をみると、上流階級の婦人たちの肖像画を多く手がけたグスタフ・クリムトは、若い頃に紙幣の試作品を作っていた。残念なことに、当時のウィーンでは、同時代に活躍したデザイナー、コロマン・モーザーがデザインした紙幣が使われていたため、美しい女性が描かれたクリムトの紙幣が人々の懐に入ることはなかった。ちなみに、隣国の旧チェコスロバキアで流通していた紙幣は、アール・ヌーヴォーの巨匠、アルフォンス・ミュシャによってデザインされていた。
また、芸術家の肖像が紙幣に採用される例も少なくない。例えば、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーは5年前に20ポンド紙幣に、フランシスコ・デ・ゴヤは1946年からユーロが導入される1999年までスペインの100ペセタ紙幣に描かれていた。
日本の銀行券は国立印刷局の「工芸官」と呼ばれる専門職員がデザインしており、高い技術力によって作られている。すかしや深凹版印刷、ホログラムといった高度な偽造防止技術が施されているだけでなく、近年ではデザイン面にも文化的な意匠が取り入れられている。2024年に刷新された新紙幣では、1000円札の裏面に葛飾北斎の《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》が採用された。これは、日本の紙幣に浮世絵が図柄として取り入れられた初の事例であり、それまで人物肖像や建築物が中心だった紙幣デザインに、新たな視覚的多様性が加わる象徴的な変更として注目を集めた。
キャッシュレス決済の普及によって、イギリスの現金使用率は12%まで減少しているが、イングランド銀行によれば、英国では5人に1人が依然として現金の使用を好んでいるという。銀行券のデザイン案は7月末まで、イングランド銀行のオンラインフォームで募集されている。採用された案に対する報酬の有無には触れられていないものの、国民が紙幣デザインに参加できる珍しい機会として、話題になっている。