英ナショナル・ギャラリーが新棟建設に750億円調達。テートの協力で20世紀絵画へ所蔵品を拡大
ロンドンのナショナル・ギャラリーが、200点以上の絵画を展示できる新棟の建設を発表した。すでに約750億円の資金を調達済みで、今後は所蔵品に関する従来の方針を変更し、20世紀絵画のコレクション拡張に取り組む。

ロンドン・ナショナル・ギャラリーは9月9日、現在のセインズベリー・ウィングとほぼ同じ広さの新棟を建設することを明らかにした。増築には約4億ポンド(約800億円)の費用がかかると見込まれるが、すでに3億7500万ポンド(約750億円)は調達済みだという。また、イギリス国内に複数の文化施設を展開するテートとのパートナーシップで、所蔵作品に関する方針の見直しを進める。
1824年に設立されたナショナル・ギャラリーは、これまでレオナルド・ダ・ヴィンチやJ・M・ウィリアム・ターナー、フィンセント・ファン・ゴッホなど、1900年までの数世紀にわたる西洋絵画のコレクションを構築してきた。一方、1900年以降に制作された近現代アートはテートに属する美術館が管轄しているが、この棲み分けについて今後協議・調整が行われる。
ナショナル・ギャラリー館長のガブリエル・フィナルディの計画では、20世紀絵画への拡大はフランスの後期印象派から着手される。その後、ピカソやマティス、イタリア未来派、ドイツ表現主義、シュルレアリスム、アメリカの抽象表現主義から現在に至るまで、20世紀の各時期と地理的な広がりを網羅していく。新たなコレクションの構築には、作品取得のほか、著名アーティストの遺産管理団体からの貸し出しや、テートとの貸借も視野に入れられている。
ナショナル・ギャラリーとテートは、今年末までに協定を締結する方向で協議中だ。アート・ニュースペーパー紙によると、テートのディレクター、マリア・バルショーは新たな協力関係について、「我われは、貸し出しやキュレーター業務、保存修復の専門知識に関してナショナル・ギャラリーのスタッフと緊密に協力し、新しい展示の開発をサポートすることを楽しみにしています」と述べている。
2030年代初頭のオープンを目指す新棟の国際コンペは9月10日に開始され、来年3月に設計者を決定する予定。増築の場所は、セインズベリー・ウィングのすぐ北にあるセント・ヴィンセント・ハウス(現在はシスルホテルが入居)を取り壊した跡地だ。
この計画を「プロジェクト・ドマーニ」(ドマーニはイタリア語で「明日」の意)と名付けたフィナルディ館長は今回の発表にあたり、「イギリス国民のみならず、各国からの来館者が、素晴らしい建築の中で中世から現代にわたる世界最高の絵画コレクションを楽しめる場所」を目指すと抱負を語った。
なお、調達済みの3億7500万ポンドの資金には、2件の大型寄付が含まれている。シリコンバレーのベンチャーキャピタリスト、マイケル・モリッツと妻で作家のハリエット・ヘイマンが設立したクランクスタート財団と、世界的な食品包装企業テトラパック創業家のハンス・クリスチャン・ラウジングが妻の故ジュリア・ラウジングと設立したジュリア・ラウジング・トラストから、それぞれ1億5000万ポンド(約300億円)が寄付された。