レンブラントに「盗作」疑惑!? 《夜警》の新調査で同年代の絵画を模写していたことが判明
アムステルダム国立美術館は、2019年から続くレンブラント(1606-1669)の《夜警》(1642)の調査の中で、同作に描かれた犬が、同年代の画家の作品を模写したものと判明したと発表した。

アムステルダム国立美術館では、2019年よりレンブラントの代表作《夜警》(1642)の大規模な調査・修復作業を特別なガラス製の部屋で公開しながら行う「オペレーション・ナイト・ウォッチ」を進行中だ。このほど、驚くべき発見が報告された。
発見の主は、オペレーション・ナイト・ウォッチのメンバーである学芸員のアンネ・レンダース。彼女がオランダのミデルブルクにあるゼーウス美術館で開催されていた、オランダ黄金時代の画家アドリアーン・ファン・デ・フェンネ(1589頃-1662)の展覧会を訪れた際に、1619年制作のファン・デ・フェンネの素描の犬と《夜警》の犬がそっくりなことに気が付いた。レンダースは声明で、「展覧会でその素描を見た時、私は即座に《夜警》の犬を思い浮かべました」と振り返っている。
アムステルダム国立美術館で調査したところ、絵画と素描の犬の頭部は同じ形状で、同じ角度で傾けられていた。また、首輪の形状や座る角度、ポーズもよく似ていた。だが、レンブラントがファン・デ・フェンネの犬の素描の実物を見たかどうかは定かではない。というのも、彼の犬の素描はヤコブ・カッツの1620年の著作『自己との闘い』の表紙にも使われており、後にフランソワ・スヒレマンスが犬の素描を模写した作品が別の書籍の表紙にもなっているからだ。

現在は、ともすると「盗作」と責められがちな行為だが、アムステルダム国立美術館のタコ・ディビッツ館長はガーディアン紙の取材に対して、「16世紀のイタリアの絵画論では、駆け出しの芸術家は多くを模写し、それに改良を加えるなどして自分のものにして腕を磨くことを推奨していたのです」と話した。
実際、研究者たちが《夜警》の犬が描かれた部分にMA-XRF(マクロX線蛍光分析)を当て、下絵のスケッチを確認したところ、そこには犬が「右前脚をより深く曲げ、胸部をより地面に近づけた」状態で、つまり「ファン・デ・フェンネの素描と全く同じ」姿で描かれていたことが分かった。レンブラントは本画の段階で独自の工夫を行ったのだ。レンブラントはそのほか、犬の口から舌を垂れさせ、尻尾を股間に挟ませている。
その工夫は、犬に絵画の舞台回しとしての役割を与えている。レンダースは、それについてロンドン・タイムズに、「《夜警》は隊長が部隊に行進開始の命令を出しているシーンが描かれています。太鼓の打ち手が大きく太鼓を鳴らし、犬がそれに怯えて吠えはじめる。犬は場面の臨場感を伝え、絵画に活気を与える重要な役割を果たしているのです」と説明した。
現在数億円規模の予算が投じられて進行中の「オペレーション・ナイト・ウォッチ」は、美術館のウェブサイトによると、「科学者、修復師、学芸員に加えて、プロジェクトパートナーであるオランダに本社を持つ世界的な塗料メーカー、アクゾノーベルの知能を結集させ、将来にわたって絵画を最適な状態で維持する」ことを目的に始まった。
タコ・ディビッツ館長は今回の発見について、次のように語った。
「世界で最も研究された絵画の1つについて、制作から約400年を経た今でも新たな事実が見つかるのは驚くべきことです。この発見は、レンブラントがこの作品を創作する際の思考過程についてさらなる洞察を私たちに与えてくれます」(翻訳:編集部)
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